戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 
 ・前編  ・中編  ・後編 


1: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:14:21.30 ID:5bQym7aBo
 IS<インフィニット・ストラトス>と仮面ライダー鎧武のクロスSSの続きになります。
 前スレは↓

戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」
前編  ・後編

 今回も舞台およびストーリーのベースはIS(のアニメ5~8話)。IS世界に駆紋戒斗が乱入した形となります。

 あ。今回もどうにもならなくなったら地の文が入ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420913661

3: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:17:20.42 ID:5bQym7aBo
■序幕
<黄昏時・IS学園屋上>

貴虎『――君はあの織斑一夏の成長に手を貸しているそうだな』

戒斗「無駄話に付き合う気は無い」

貴虎『まあ待て、電話を切らないでくれ。子育てというのも悪くないものだ。光実も、子供達も、孫達も、みんな可愛かったよ』

戒斗「切るぞ」

貴虎『君だって、織斑一夏から血の影響というものを感じているのだろう?』

戒斗「……」

貴虎『その様子では、子育てを楽しんでいるようだな』

戒斗「さっさと用件を言え」

貴虎『ああ。――今朝、フランスのデュノア社が第三世代ISを発表した』

戒斗「それがどうした」

貴虎『簡単に言えば、ありえないことが起こった、ということだ』

戒斗「ほう?」

貴虎『デュノア社の第三世代IS開発は難航していた。ひと月やふた月では状況の進展が望めないほどに、な』

戒斗「だが、デュノア社は第三世代ISを完成させたのだろう?」

貴虎『そうだ。まるで――』

戒斗「黄金の果実でも得たような劇的な変化、か」

貴虎『そうだ。私はこの変化の裏に一人の天才の介入があったと見ている』

戒斗「篠ノ之束だな」

貴虎『一夜にして新しい第三世代ISを完成させるなど、ISの開発者である彼女以外には成しえないことだからな。その存在はまさに、現代における黄金の果実だ』

戒斗「それで。まだ、話は終わらないのだろう?」

貴虎『ああ。デュノア社の社長令息がIS学園に転入するらしい』

戒斗「……」

4: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:18:32.29 ID:5bQym7aBo
貴虎『表向きは『デュノア社の第三世代ISの稼働テスト』と『ISを使える男性の安全確保』という名目を掲げているが……』

戒斗「そいつは篠ノ之束の手駒、というわけか」

貴虎『ああ。おそらく、デュノア社は実子を篠ノ之博士に売り渡して、見返りとして第三世代ISの技術を得たのだろう。今、転校生の資料を送る』

戒斗「……ふん。愛人の子、か」

戒斗「資料では『女』ということになっているが、これは何だ」

貴虎『ああ、本当の性別は女だ。だが、男と偽っている。君か織斑一夏、あるいは両方に自然と接触を図れるように、だろう」

戒斗「接触して、それで何をするというのだ」

貴虎『……』

戒斗「どうした?」

貴虎『……。この世界のアーマードライダーや仮面ライダー達は、何者かの手によって暗殺された可能性がある。その話はしてあったな?』

戒斗「……」

貴虎『デュノア社長の令息……いや、令嬢は、君に差し向けられた刺客かもしれん』

戒斗「くくっ。くくく。はははははははは!」

貴虎『駆紋……?』

戒斗「くくっ。篠ノ之束からの挑戦状というわけか。いいだろう、受けてやる!」

貴虎『ふっ。頼もしい限りだ』

貴虎『では、駆紋戒斗。君の健闘を祈る』

戒斗「ふん」

戒斗「……見え見えの罠、か」

 ――戒斗は、手のひらを夕陽に透かした。その手はガラスのように赤光を通す。

戒斗「俺の残り時間は、思っていたより少ないらしい」

戒斗「いいだろう。この際だ、貴様の策略を利用させてもらうぞ、篠ノ之束!」

5: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:19:11.76 ID:5bQym7aBo
<同時刻・アリーナ>

一夏(強くなりたいって、ずっと思ってた)

一夏(俺は、誰かに守られてばかりだったから……)

一夏(でも)

一夏(強さって、何だ?)

一夏(単純に『敵を倒す力』じゃあない。駆紋戒斗という『負け続ける男』は、『不屈の魂』という強さを俺に示してくれた)

一夏(どうやら、強さには種類があるらしい)

一夏(……)

一夏(強くなりたい。でも)

一夏(俺は、どんな強さが欲しいんだろう)

6: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:20:21.55 ID:5bQym7aBo
■第一幕 駆紋戒斗のいるIS学園の日常
<朝・1年1組>

「あんたその絆創膏、まさか……」
「うん。『千冬様チャレンジ』しちゃった」
「成功……は、まあ、その様子じゃしてないわよねぇ」
「生徒会長だってダメだったんだよ? 私ができるわけないじゃん!」
「いばることか!」
「あいた!?」
「しっかし。――じゃあ、『千冬様チャレンジ』を成功させた人は、名実共に学園最強になりそうねえ」



<SHR(ショート・ホーム・ルーム)・1年1組>

山田「はーい。先生からのお知らせです。今日は、転校生を紹介します!」

シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

一夏(え? ……お、お、お……)

「男の子の転校生!?」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれてよかった~~~~~!」

一夏(なんだこの歓待ムード!?)

シャル「あ、あはは……」

一夏(ああ、うん。そりゃ引くよな。女子のあの圧倒的なパワーってどこから来るんだろう……)

戒斗(ふん)

戒斗(あれが、篠ノ之束が送り込んだ刺客か。――きょろきょろと周囲の目を気にする様は、まるで呉島光実だな)

7: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:21:35.24 ID:5bQym7aBo
<2時間目・1年3組>

セシリア(陰謀のニオイがしますわ……!)

セシリア(どんなに急いでも一ヶ月以上かかると言われていた強襲用高機動パッケージ《ストライク・ガンナー》の完成品が、昨夜届いた……)

セシリア(『駆紋戒斗を籠絡せよ』と本国からの再度の念押しと一緒に)

セシリア(強襲用高機動パッケージの完成が何者かとの取り引きの結果であることは明白ですわ)

セシリア(……)

セシリア(イギリス、だけなのかしら)

セシリア(他の国も、何らかの条件と引き換えに駆紋さんに干渉をしようとしている可能性も……?)

セシリア(駆紋さんのクラスにフランスからの転校生が来た、という噂を耳にしました。もしかしたら……)

セシリア(駆紋さん……)



<3時間目休み時間・更衣室>

一夏「しかし。この時期に転校ってのも大変だったろ、シャルル」

シャル「確かに急だったけど、仕方なかったんだよ」

一夏「何か事情があるのか?」

戒斗「デュノアが、ISメーカーデュノア社の社長令嬢だからだ」

シャル「!?」

一夏「何だシャルル、社長の息子だったのか! いやー、納得いったわ。なんとなく気品! っていうかいいとこの育ちって感じするもんなあ」

一夏「でも戒斗。社長の息子なら令嬢じゃなくて令息じゃないか?」

戒斗「……」

戒斗「そうだったな」

一夏「お前でも間違えること、あるんだな」

戒斗「ふん」

シャル(……駆紋戒斗。もしかして、僕の正体に気づいてる? 困ったな……)

シャル(僕は駆紋戒斗を暗殺しなきゃならないのに。警戒されちゃやり辛いよ)

シャル(でも……)

シャル(必ずやり遂げなきゃ)

シャル(あの人のために)

8: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:22:22.53 ID:5bQym7aBo
<4時間目・グラウンド>

一夏「へー。それがシャルルの専用機か」

シャル「うん。デュノア社が発表したばかりの第三世代ISなんだ。第二世代の傑作機、ラファール・リヴァイブをベースに――」

戒斗(ん?)

戒斗(……何人か、顔に絆創膏を貼っている女子がいるな)

戒斗(ふむ……)

9: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:23:39.79 ID:5bQym7aBo
<昼休み・屋上>

一夏「――っていうわけで。フランスからの転校生、シャルル・デュノアだ!」

セシリア「ふぁっ!?」

一夏「どうしたんだ、セシリア。変な声上げて?」

シャル「や、やっぱり僕はここにいない方が良かったんじゃあ……」

一夏「そんなこと無いって! ご飯はみんなで食べた方が美味しいしさ。な、セシリア!」

セシリア「え、ええと」

セシリア(バカですの? 織斑さんはバカですの!? 国家に何者かの介入の手が伸びているこの状況で転校生と行動を共にするなんて! ああでも、織斑さんは国々の事情なんて知らないでしょうし。ああもう、ああもう!?)

戒斗「オルコット」

セシリア「な、なんでしょう駆紋さん!?」

戒斗「高貴なる者には相応の振舞いがある。そうだな?」

セシリア「……!」

セシリア「ふ、ふん。駆紋さんに言われるまでもありませんわ! わたくしはセシリア・オルコット。よろしくお願いしますわね、デュノアさん」

シャル「うん。よろしくね、オルコットさん」

鈴「あたしは凰鈴音よ。鈴でいいわ、シャルル」

シャル「わかったよ。よろしくね、鈴」

箒「篠ノ之箒だ。私は――」

鈴「箒でいいわよ」

箒「鈴!?」

鈴「だめなの?」

箒「だ、男子に気安くと名前を呼ばれるのは……」

シャル「あはは。なら、篠ノ之さん、だね。よろしく」

箒「ああ。よろしく、デュノア」

10: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:24:41.59 ID:5bQym7aBo
一夏「あれ? なら、俺も箒のことは篠ノ之さんって呼んだ方がいいのか?」

箒「お前は箒でいい!」

一夏「え、何で」

箒「何でって……。それを聞くのか、バカ者!」

一夏「今、俺、何で罵られたんだろう……?」

シャル「あー……」

一夏「どうしたんだよ、シャルル。変な顔して」

シャル「だいたいわかった。一夏って、こういう人なんだね」

鈴「不本意ながらね」

箒「まったくだ」

一夏「何だよその謎の連帯感!?」

セシリア「――こほん」

鈴「どうしたの、セシリア。あらたまっちゃってさ」

セシリア「じ、実はわたくし……。今日はお弁当を作ってみましたの!」

鈴「へー。ふーん。ほー」

セシリア「そ、その意味ありげな視線は何ですの!?」

鈴「べっつにぃ。……で。セシリアはそのお弁当を誰に食べてもらいたいのかなあ?」

11: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:26:08.85 ID:5bQym7aBo
セシリア「べ、べべべ別にそういう意図で作ったものではありませんわ!」

鈴「ふーん。ま、いいけどね。んで、イギリス令嬢はどんなお弁当を作ったのかなー?」

鈴「……」

鈴「あ。イギリスかぁ……」

セシリア「決闘ならいつでもお受けいたしますわよ、鈴さん!?」

鈴「ごめんごめん」

セシリア「まったく。これがわたくしのお弁当ですわ」

一夏「おお。料理本の写真みたいな出来のサンドイッチ……!」

セシリア「ふふん。わたくしだって、やればこれくらいはできますのよ!」

箒(指に絆創膏が巻かれている。不慣れな中、努力したのだろう。私も最初は大変だった)

セシリア「それでは、みなさんで――」

鈴「じゃあ、一個目は戒斗が食べなさいよ」

セシリア「ふぁっ!?」

シャル「ん? もしかしてオルコットさんって」

セシリア「わーわーわー! 何でもありません! 何でもありませんわ!」

シャル「そ、そう」

戒斗「では、一つもらおうか」

セシリア「ふぁっ!?」

戒斗「……」

セシリア(あっさり食べましたわー!? ……ど、どど、どうなんでしょう……)

12: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:27:12.05 ID:5bQym7aBo
鈴(にやにや)

セシリア(鈴さんとはあとで決着をつけなければなりませんわね! ――そ、その。確かにお料理中に駆紋さんのお顔を思い浮かべなくもありませんでしたが! う、ううぅ)

戒斗「……」

戒斗「オルコット」

セシリア「は、はい!?」

戒斗「貴様は……――料理を何だと思っているッ!」

セシリア「ふぁっ!?」

戒斗「いずれ貴様に本当の料理を教えてやる……! 覚えて、い、ろ……」

一夏「か、戒斗が倒れたァーーー!?」

セシリア「駆紋さん!? どうなさいましたの、駆紋さん!」

箒「ほ、保健の先生を呼んでくる……!」

戒斗「それには及ばん……」

一夏「戒斗が復活したーーー!?」

戒斗「貴様は本当にやかましい奴だな……」

一夏「懐かしいなそのセリフ!?」

鈴「……」パクッ

鈴「……」モグモグ

鈴「……。やっぱ、イギリスはイギリスねえ」

セシリア「決闘ですわね!? ISを出しなさい、鈴さん!」

鈴「あたしが無事だったらね」パタン

一夏「今度は鈴が倒れたーーー!?」

箒「ほ、保健の先生を呼んでくる……!」

セシリア「どうしてですの!? どうしてこうなりますの……!」

シャル(……)

シャル(ああ)

シャル(眩しいや……)ギリッ

13: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:28:24.07 ID:5bQym7aBo
<5時間目休み時間・1年1組>

戒斗「聞きたいことがある」

「いいよー。その代わり、こないだの調理実習で駆紋君が作った、あの美味しいフルーツタルトのコツを教えて!」

戒斗「交換条件というわけか。いいだろう」

「ふふっ。それで、何が聞きたいのかなー?」

一夏(何だかんだで、戒斗の奴もクラスに溶け込んでるよなあ)

戒斗「貴様と、他の3人。それに他のクラスにも。額に絆創膏を貼っているな。何があった」

「あー、これねー。女の勲章ってヤツカナー」

一夏(女の勲章……?)

「あはは。この子ね、『千冬様チャレンジ』したのよ」
「はい! 挑戦してー、見事にボロ負けしました!」

一夏(千冬様チャレンジ……?)

「千冬様チャレンジっていうのはね。まあ、すっごく簡単に説明すると――」

「――織斑先生のお風呂を覗くことよ!」

戒斗「……」

一夏(は……?)

「ああ、麗しき織斑千冬様! 第1回IS世界大会《モンド・グロッソ》の総合優勝者にして、公式戦無敗の《ブリュンヒルデ》!」
「強くて美しい、世界中の女性の憧れ!」
「そしてIS学園は、最強にして最高の美女との共同生活!」

「「「これはもう、覗くっきゃないでしょ!!」」」

一夏(わ、わからない。俺には女子がわからない……)

戒斗「なるほどな」

一夏(なん……だと……)

戒斗「つまり、その『千冬様チャレンジ』とは最強に挑戦することで己の強さを見せつける行為、というわけか」

14: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:29:22.77 ID:5bQym7aBo
一夏(あわわわわわわわわわ。な、何かメッチャ楽しそうな顔してるよカイトォォオオオオッ!?)

戒斗「面白い。俺も一つ乗ってみるか」

一夏(うわぁあああああっ!? こいつ、やる気だーーーー!?)

一夏「戒斗! お前本気で千冬姉の風呂を覗くつもりかよ!」

戒斗「そうだ」

一夏「ふざけんなっ!」

戒斗「ほう。俺とやるつもりか?」

一夏「当たり前だ! 千冬姉の裸は――俺が守るッ!」

戒斗「ふん」

戒斗「なあ、織斑」

一夏「何を言われたって懐柔されないからな!」

戒斗「貴様は、いつまで『守られる存在』に甘んじるつもりだ?」

一夏「……。ど、どういうことだよ」

戒斗「言葉通りだ。織斑、貴様は『守られる存在』だ。特に、織斑千冬にとっては、そうだ」

一夏「それは……ッ!」

戒斗「貴様が弱者だと、織斑千冬に思われているからな」

一夏「!?」

15: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:30:04.48 ID:5bQym7aBo
戒斗「『守られる存在』から『守りし者』になりたくはないか、織斑?」

一夏「そ、そりゃ俺だって。……でも、そんなことどうやって……」

戒斗「簡単な話だ。貴様の強さを織斑千冬に見せつけてやればいい」

一夏「強さを、見せつける……」

戒斗「そうだ。織斑千冬が貴様の強さを認めれば、織斑は『守られる存在』から『守りし者』になれるだろう」

一夏「俺が、守りし者に……」

戒斗「『千冬様チャレンジ』は、そのためのチャンスだ。挑戦するかしないか。いや――」

戒斗「いつまで『守られる存在』でいるかは、貴様が決めるといい」

一夏「……」

一夏「…………」

一夏「やってやるよ」

戒斗「ほう」

一夏「やってやる! 『千冬様チャレンジ』に打ち勝って、俺の強さを千冬姉に見せつけてやるよ!」

16: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:30:52.54 ID:5bQym7aBo
<放課後・学生寮シャルの一人部屋>

 ――シャルは“黒幕”に報告を行っていた。

シャル「……はい。どうやら、駆紋戒斗は僕の正体に気づいているようです」

シャル「え、追加のエージェント……?」

シャル「ま、待ってください! それは、僕は用済みということでしょうか!?」

シャル「待って! ――僕を、捨てないで……」

シャル「え……? 追加のエージェントと協力して任務に当たれ、ですか……」

シャル「取り乱してしまってすみません」

シャル「はい。必ずやり遂げてみせます」

シャル「え? 駆紋戒斗の『千冬様チャレンジ』に同行しろ、ですか……?」

シャル「い、いえ、やります」

シャル「必ず、駆紋戒斗と織斑千冬の直接対決の結末を見届けます!」

シャル「はい、分かりました。それでは、また」ピッ

シャル「……」

シャル「あの人は僕を必要としてくれている」

シャル「誰も必要としてくれなかった、この僕を……」

17: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:31:59.60 ID:5bQym7aBo
<同時刻・1年2組>

セシリア「失礼します」

セシリア「鈴さん。突然の特訓中止の理由も合わせて、2組に呼び付けた事情を説明していただき……ま……す……」

セシリア「な、何をお造りになられているのでしょう?」

鈴「トラップ」

セシリア「一体何のために……」

鈴「一夏の奴をぶっ潰すために決まってんでしょ」にっこり

セシリア「……え、えーっと」

鈴「一夏のバカ、千冬さんのお風呂を覗くとか言いだしたらしいのよ!? これ以上あのバカのシスコンが加速したらこっちが困るのよ! ねえ、箒!」

箒「……ああ!」

セシリア(ち、力強い返事ですわね)

セシリア「み、みなさんも同じ志をお持ちで?」

「やー、アタシ達は鈴に頼まれただけなんだけどさー」
「鈴に頼まれちゃあ、やらないわけにもいかないかなぁって」
「あう。上手く曲がらない」

箒「ちょっと貸してみろ。――ハァッ!」

「篠ノ之さんすごーい!」

箒「そ、それほどでも」

「篠ノ之さんって美人だけど、照れると可愛いよね」
「近寄り辛いなーって思ってたけど、話してみるとそうでもなかったしね!」

箒「あ、あう……」

セシリア(えーっと……)

鈴「セシリア、ちょっとこっち来て」

セシリア「は、はい?」

18: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:32:48.18 ID:5bQym7aBo
<1年2組・教室の隅>

鈴「そもそも、発端は戒斗らしいわよ?」

セシリア「ふぇ?」

鈴「千冬さんのお風呂を覗くことが強さの証明、って聞いたら喜んで乗っかったらしいわ」

セシリア「い、意味がわかりませんわ……」

鈴「あたしもよくわかんないけど――あんた、いいの?」

セシリア「な、何がですの」

鈴「だってセシリアって、戒斗のこと好きじゃないの?」

セシリア「ふぁっ!?」

鈴「あれ? セシリアってばいつも戒斗を目で追ってるから、あたしてっきり……。違ったの?」

セシリア「……」

セシリア「正直、よくわかりませんわ」

セシリア「ただ、あの方を見ていると……」

鈴「うんうん」

セシリア「……やっぱり、よくわかりませんわ」

鈴「……」

鈴「そっか」

セシリア「笑ってもいいのですよ?」

鈴「それを笑っちゃ、あんたと友達でいられなくなるわよ」

セシリア「……ふふっ」

19: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:33:59.27 ID:5bQym7aBo
<1年2組・中央>

鈴「しょーじき。あたし、危機感抱いてるのよ」

セシリア「?」

鈴「一夏と戒斗よ! あいつら、距離近すぎない!?」

箒「!?」

セシリア「!?」

鈴「一夏は何だかんだでちょくちょく戒斗の方見てるし……」

セシリア「そういえば、駆紋さんも口調はツッケンドンでも、織斑さんには妙に優しいですわ……」

箒「た、確かに……」

「俺様系イケメンと熱血美少年の組み合わせかー……」
「『黙って俺のモノになれ、織斑』って? きゃー!」
「でもでも、織斑君のヘタレ攻めって線も!」

「ちょっと待って!! 1組にはフランス貴公子のシャルル・デュノア君が転校してきたんだよ!」

セシリア「!?」

鈴「!?」

箒「!?」

「まさか――薔薇の三角関係!?」

鈴「あ、ありえる……」

セシリア(ごくり……)

「ねえねえ、篠ノ之さんはどう思う?」

箒「わ、私か!? 私は……」

箒「……」

箒「駆紋に壁ドンされるデュノアが、とても絵になると思うんだ……」

鈴「……」

セシリア「……」

2組のクラスメイト達「…………」

箒(あ、あああ。は、外してしまったか……!?)

「「「「王道ね!!!!」」」」

箒(……)

箒(姉さん。私、友達が増えました)

20: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:35:05.57 ID:5bQym7aBo
<放課後・廊下>

一夏「本当にシャルルもやるのか?」

シャル「う、うん。一夏こそよくやる気になったね」

一夏「フッ。俺は、千冬姉に俺の強さを見せつけないといけないからな!」

シャル(な、何か燃えてるよぉ)

シャル「……」

シャル「……一夏と駆紋君って、仲良いよね」

一夏「ん? まあ、そうだなあ」

シャル「何だか微妙な反応だね……。友達なんだよね?」

一夏「どうなんだろうな?」

シャル「僕に聞かれても……」

一夏「あはは。俺も、俺と戒斗の関係なんてよく分かんねーよ」

一夏「ただ……」

一夏「俺さ、あいつを見てると、すげぇなって思うんだ」

一夏「だから。もしかしたら俺は、駆紋戒斗って男に憧れているのかもしれない」

一夏「戒斗には言うなよ? 絶対だぞ!」

シャル「う、うん」

シャル(……)

シャル(憧れてる、ね)

シャル(……)

シャル(一夏にとっての駆紋戒斗は『必要な人』なのかな)

21: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 03:35:59.42 ID:5bQym7aBo
<放課後・1年1組>

「駆紋君と織斑君、本当に『千冬様チャレンジ』するのかな?」
「やー。駆紋君ならやりそうだよね。そして、成功させそう!」
「でも、千冬様だよ? いくら駆紋君でも……」
「って言うか、駆紋君ってIS戦全敗じゃあ……」
「…………」


「すばらしいッ!」


「誰!?」
「あ、あんた達は!」
「3バカ!?」

クラスメイト3「すばらしい! エロスは原初の欲望だよ!」
クラスメイト2「『千冬様チャレンジ』。それもまた、高貴な行い――」
クラスメイト1「ったく。あいつも声かけてくれないなんて、水臭いじゃねえか」

クラスメイト1「2組が、駆紋の大将達をぶっ潰す準備をしているらしいぜ。だったら――1組がやることは、決まってるよな」

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 04:03:57.22 ID:aAVNoEa40

待ってました
そしてクラスメイト1,2,3の安定感wwww

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 09:10:34.54 ID:CC9p8WLSO
初代オーズの子孫、全てのワームの頂点にたつ者、サバトを止めた古の魔法使いが相手か…

勝てない

32: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 11:56:13.58 ID:5bQym7aBo
■第二幕 真・クラス対抗戦!
<夜・織斑千冬が独占した大浴場>

千冬「ふー……。風呂に浸かっていると、自分が日本人だと実感させられるな」

千冬「このままゆっくりと湯船に沈んでいたいところだが」

千冬「今夜も来るだろうからな。『千冬様チャレンジ』とかいう、馬鹿げた挑戦が」

千冬「それに……」

千冬「だがまあ。もう少しゆっくりしていくか」



<夜・学生寮裏の茂み>

一夏「戒斗。お前、訓練機の《打鉄》まで用意してきたのか……」

戒斗「相手は織斑千冬だからな」

シャル(冷静に考えると、今の僕達って武装変態集団だよね……)

戒斗「事前に説明した通り、校舎の外壁に沿って大浴場の裏手を目指す」

シャル「ルート上にトラップがあるから気をつけろ、ってことだね」

戒斗「いや、無い」

シャル「え?」

戒斗「問題は大浴場に着いた後だ。――窓から顔を覗かせた瞬間に、手桶を喰らわされるそうだ」

一夏「ああ、だから額に絆創膏貼ってたのかー」

シャル「それ、ISの絶対防御を展開すれば防げるんじゃあ……?」

戒斗「それを試みた人物は、絶対防御を突き破られて昏倒させられたらしい」

一夏「さすが千冬姉、滅茶苦茶だな!」

シャル「何かちょっと嬉しそうだね、一夏……?」

一夏「それくらいじゃないと挑戦し甲斐が無いからな!」

戒斗「騒ぐな。――では、行くぞ」

33: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 11:56:54.67 ID:5bQym7aBo
<闇の中>

「ふふふふふ。1年2組が総力を上げて急造したこのトラップゾーン……。突破できるものならしてみなさいよね、一夏ッ」
「わたくしもお手伝いしましたので、セシリア・オルコットと愉快な仲間達ですわよ」
「私達がおまけになるのか……?」
「当然ですわ。わたくしは高貴ですもの!」
「しっ。足音が聞こえる。来るわよ」

34: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 11:58:32.85 ID:5bQym7aBo
<大浴場近くの茂み>

戒斗「待て」

一夏「どうしたんだ」

戒斗「どうやら、俺達を罠にハメたい奴がいるらしい」

シャル(どうしてそこで僕を見るのかな!?)

戒斗「そこに隠れている奴、出てこい」


鈴「バレちゃあしょうがないわね!」


セシリア「鈴さん、悪役みたいですわ……」

鈴「うっさいわね!?」

箒「まあ、罠を張って待ち伏せは悪役の所業だな……」

鈴「いいのよ! 大義あたし達にあるんだから!」

一夏「た、大義だって……!」

鈴「そうよ! 女の人のお風呂覗くとか普通に痴漢よ、痴漢!」

一夏「……」

一夏「……」

一夏「あ……」

鈴「気づいてなかったんかーい!?」

戒斗「惑わされるな、織斑。貴様の強さを姉に見せつけるのだろう?」

一夏「っは、そうだった! 俺は千冬姉に認めてもらわなきゃならないんだ!」

セシリア「むしろ、駆紋さんが織斑さんを惑わしてますわ……」

箒「っというか、これはやはり、一夏の駆紋に対する信頼度が高すぎるのが問題では」

鈴「シスコンでホモってか!? ますます救えないわよそんなのー!?」

シャル「よ、よくわからないけど、通してもらえないかな……?」

鈴「ダメよ! 出てきて、2組のみんな!」

2組のクラスメイト達「「おーーーー!!」」

一夏「うぇっ、何人いんだよ!?」

鈴「ふふん、これが人望よ!」

一夏「この万年クラス委員め!」

鈴「褒めてんのか貶してんのかはっきりしなさいよ!?」

35: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:00:59.75 ID:5bQym7aBo
シャル「……何だかどたばたしてきたけど、状況はよくないよ。さすがに2組の人達全員が相手じゃあ」

戒斗「関係無い」

シャル「え?」

戒斗「誰が敵に回ろうと関係無い。やると決めたことはやり遂げる、それだけだ」


「いやー。かっこいいねぇ、大将!」


シャル「誰!?」

戒斗「貴様らか。何――」

クラスメイト1「みなまで言うなって。ここは任せな」

クラスメイト2「神に代わって剣を振るう女――」

クラスメイト3「後藤君、例の物を」

クラスメイト5103「はい」

1組クラスメイト達「「「私達もいるよ!!」」」

一夏「み、みんな……」

戒斗「ふん。行くぞ織斑、デュノア」

一夏「おう!」

シャル「う、うん!」

鈴「逃すか! ――って、うひゃあっ!?」

セシリア「な、何ですのその銃!?」

クラスメイト3「バースバスター。メダル不足やISの登場で時代遅れとなってしまったが、こういう場面ではまだまだ現役だよ。後藤君!」

クラスメイト5103「ハァッ!」

セシリア「ちょ、ほ、本気で撃ってきますわ!?」

箒「これでは一夏達を追いかけられない……!」

鈴「ええい! それならISよ! お望み通り、あんな玩具みたいな銃を時代遅れにしてやろうじゃない!」

クラスメイト1「――フッ」

セシリア「な、何がおかしいんですの!?」

クラスメイト2「友情のために立ち上がった我らを、IS如きで止められると思うな!」

セシリア(――何ですの、この気配《オーラ》!? まるで、駆紋さんがあの黒いベルトを取り出した時のような……!?)

クラスメイト1「行くぜ二人とも!」

箒「!?」

 ――変……身ッ!

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 12:01:49.67 ID:EdCb15Aao
>クラスメイト5103
マニュアル好きそうな名前だぁ

37: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:02:14.59 ID:5bQym7aBo
<大浴場裏>

一夏「戒斗ってさ。一匹狼って感じなのに、何か不思議と人が集まってくるんだよなあ」

シャル「…………」

シャル(何だよ、それ)ギリッ

戒斗「ふん」

一夏「見えた。大浴場だ!」

一夏「でも、ここからが本番なんだな……。って、戒斗、お前何してんだよ!?」

戒斗「小さな窓から覗くから、的を絞られて桶をぶつけられる。ならば!」

シャル(う、うわぁ!? 大浴場の壁をISで壊したー!?)

一夏「……」

一夏「た、確かにそれなら桶を避けられるかもしれない!」

シャル(な、納得してる……)

戒斗「……ふん」

シャル(あれ?)

戒斗「どうやら、桶よりも面白いものと戦うことになりそうだぞ」

千冬「やりすぎだ、バカ共。覚悟しろよ」

シャル(お、織斑先生、裸どころか打鉄に乗って待ち構えてたー!?)

38: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:03:27.94 ID:5bQym7aBo
<大浴場近くの茂み>

 ――クラスメイト1・2・3が目を回していた。

鈴「変身って何よ! IS展開しただけじゃない!」

セシリア「ほっとしたような、残念なような……」

箒「IS操縦の技術も大したことはなかったな」

セシリア「当然ですわ。ISの操縦は経験こそが全て。毎日特訓しているわたくし達が負ける道理はございません。――IS戦において、ジャイアントキリングはありえないのです」

箒「……」

鈴「どしたの?」

箒「いや。一夏達はどうなったのか、と思ってな」

鈴「んー。ここはみんなに任せて、あたし達は一夏達をおっかけよっか」

セシリア「そうしましょう」

鈴「みんなー! ここは任せた!!」

2組のみんな「「「任せてツルペタクラス代表!!」」」

鈴「……。あ、あんた達全員沢芽の海に沈めてやるからな!? 覚えときなさいよーー!!」

39: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:04:31.67 ID:5bQym7aBo
<大浴場>

シャル「一夏! しっかりして、一夏!」

一夏「あれ、シャルル? 俺、どうして……」

シャル「一夏は織斑先生に挑んで、その……」

一夏「……」

一夏「瞬殺されたんだっけ……」

シャル「うん……」

一夏「やっぱ強いなあ、千冬姉は」

シャル「……」

一夏「どうしたんだ、シャルル?」

シャル「あれ、見て」

一夏「え? …………」

一夏(二機の打鉄が互角の勝負を繰り広げていた)

一夏(千冬姉と戒斗だ)

一夏(その光景には既視感があった)

一夏(俺はかつて、千冬姉と戒斗の深夜の決闘を盗み見ている。目の前の光景は、ソレにそっくりだった)

一夏(けど……)

一夏「あ……」

シャル「どうしたの?」

一夏「前にさ。戒斗、今の形の攻防から負けたんだよ」

シャル「そうなんだ。でも、今は上手くしのいだね」

一夏(幾度となく見た、戒斗の負ける姿。――そのことごとくを、アイツは打ち破っていった)

一夏(…………)

40: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:05:36.96 ID:5bQym7aBo
<大浴場>

箒「一夏!」

セシリア「あら、駆紋さんの姿がありませんわ」

鈴「千冬さんとシャルルもいないわね」

箒「一夏、どうしたんだ一夏。……一夏?」

一夏「あ、ああ、箒か」

箒「どうしたんだ。何かあったのか?」

一夏「……」

鈴「一夏?」

一夏「千冬姉が、負けた」

箒「ば、バカを言うな!? 千冬さんが負けるところなんて、私は一度も見たことが無いぞ!」

セシリア「っと言うか、誰にも負けていないはずですわ。だって織斑先生は、公式戦無敗の《ブリュンヒルデ》ですもの……」

鈴「誰が」

箒「?」

鈴「誰が、千冬さんに勝ったのよ」

一夏「……」

一夏「戒斗、だよ」

一夏「そんな顔するなよ。この目で見た俺だって、いまだに信じられないんだ」

一夏「でも……」

一夏「確かに戒斗は、千冬姉に勝ったんだよ……」

41: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:07:09.57 ID:5bQym7aBo
<教員室に通じる廊下>

千冬「ははっ。まさか私がIS戦で負けるとはな」

千冬「駆紋戒斗……。ふふ、じいさんに聞かされていた通りの人物だったな」

千冬「不撓不屈の、本当に強い男。……ふふ。ははははは!」

千冬「しかし」

千冬「打鉄を装備して大浴場で待て、とは。あいつも妙な場所を決闘場に指定するものだ」



<帰り道>

シャル「一夏、本当に置いてきちゃってよかったのかな」

戒斗「気をとり直したら自分の足で帰ってくる」

シャル「そう……」

シャル(駆紋戒斗は、織斑先生に勝利した。それは、驚くべきことだけど)

シャル(さすがに、疲れ果てている)

シャル(暗い夜道で、周囲に人影もない)

シャル(――今なら)

戒斗「殺せる、な」

シャル「!?」

戒斗「シャルロット・デュノア。貴様を盾にしてコソコソと動いている篠ノ之束に伝えろ」

戒斗「俺を殺したければ力でねじ伏せることだ、とな」

42: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:08:44.29 ID:5bQym7aBo
<某所>

「――ふむ。よく報告してくれたね、シャルロット」

「ならばお望み通り、学年別トーナメントで堂々と暗殺することにしよう。君は引き続き指示を待ちたまえ」

「大丈夫。私は君を捨てたりしないよ」

「ふふっ。おやすみ、可愛いシャルロット」

「…………」

「ふふっ。はっはっはっはっは!」

「聞いたかい、束? 『篠ノ之束に伝えろ』だってさ。ははははは!」

「いいねぇ、駆紋戒斗。君の滑稽な姿は私を愉快な気持ちにさせてくれるよ」

「ああ。これは、五十年振りに口にする機会があるかもしれないねえ」


「『全部私のせいだ! ハハハハハッ!』 ってね。ハハハハハッ!」


 ――その高笑いを恐れて、縮こまった篠ノ之束が耳を塞いでいた。

43: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:10:32.93 ID:5bQym7aBo
<夜中・学生寮1025室

一夏「戒斗。さすがに今日は寝ちまったか」

一夏「……」

一夏「どんな強さが欲しいのか。その答えが出たよ」

一夏「不屈の魂で何度でも立ち上がり、最後には勝利する――」

一夏「そう」

一夏「戒斗。俺は、お前になりたい」

一夏「……」

一夏「おやすみ」

戒斗(……)

戒斗(ふん)

戒斗(そうではないのだ)

戒斗(それは、本当の強さにはほど遠いものだ)

戒斗(織斑。貴様が手に入れなければならない強さは、もっと――)

戒斗(欲深くなくてはならん)

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 12:11:07.60 ID:EdCb15Aao
クラスメイト123はもしやあのライダー達の子孫なのでは…

45: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 12:12:37.18 ID:5bQym7aBo
<翌日・SHR・1年1組>

 ――1年1組の面々は、石を抱いて正座をしていた。

一夏「あの、千冬姉――あぃったぁっ!?」

千冬「学校では織斑先生だ」

一夏「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」

千冬「まったく。敷地内でのISの無断使用に、大浴場の破壊。その他諸々……。浮かれ過ぎだ、バカ共めが」

一夏「はい。反省しております……」

山田「お、織斑先生。そのくらいにして、転校生の方を」

千冬「そうだったな」

一夏(転校生?)

千冬「入れ」

「――ハッ!」

一夏(なんか、ちっちゃくてキビキビした女の子だな)

千冬「挨拶をしろ、ラウラ」

ラウラ「はい、教官」

千冬「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

ラウラ「了解しました」

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

山田「あ、あの。以上、ですか?」

ラウラ「以上だ」

一夏(な、何だ。何なんだこの子)

ラウラ「……織斑一夏というのはお前か」

一夏「え。あ、ああ」

ラウラ「! 貴様が――」

 ――パシン

一夏(え……? 俺、今、なんで叩かれたんだ……?)

ラウラ「私は認めない! 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」

一夏(…………)

一夏(何だかわかんねえけど、こいつは俺を千冬姉の弟とは認めないと言っている)

一夏(…………)

千冬「…………」

一夏(いや。しょうがないよなあ……)

一夏(そりゃ、こんな、石抱いて正座してるような男が千冬姉の弟って名乗ったら、俺だって張り倒すよ)

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 12:23:12.22 ID:EdCb15Aao
まったく懲りないプロフェッサーだ…あとでバロンパンチだな

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 13:25:19.15 ID:aAVNoEa40

クラスメイト全員が石抱いて正座中とかシュールすぎるwwww

54: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:41:37.57 ID:5bQym7aBo
■第三幕 大嵐の前の嵐
<1時間目休み時間・1年1組>

一夏「やっと石抱き正座から解放されたー!」

シャル「次の授業はグラウンドに集合だよね。早く更衣室に行こう」

一夏「そうだな。戒斗も――」

戒斗「先に行け。俺はやることがある」

一夏「うん? よくわかんないけど、遅刻すんなよ。行こうぜ、シャルル」

シャル「う、うん」

シャル(駆紋戒斗。……今度は何をしでかすつもりなの?)

戒斗「……」

戒斗(今朝、呉島貴虎から連絡があった。ドイツから、新たな転校生が来る、と)

戒斗(ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍人で、第三世代ISの専用機持ち)

戒斗(そして……。恐らく、こいつもまた奴の手駒)

戒斗(だが、奴が貴虎の情報通りの人物なら……)

戒斗「ボーデヴィッヒ」

ラウラ「む。……駆紋戒斗か」

戒斗「貴様に用がある」

ラウラ「私は貴様と慣れ合うつもりは無い」

戒斗「そうか」

ラウラ「そうだ。じゃあな」

戒斗「……」

戒斗「《雪片》」

ラウラ「!? 貴様、今、何と言った!」

戒斗「織斑千冬は、雪片という長刀一本で第1回IS世界大会を勝ち抜いた。以降、雪片は最強の証となった」

ラウラ「貴様、何が言いたい!」

戒斗「織斑一夏のISは雪片を継承している」

ラウラ「な、何だと!?」

戒斗「俺の用は終わった。じゃあな」

ラウラ「ま、待て!」

ラウラ「……」

ラウラ「あいつが、雪片を受け継いだだと? 教官の後継者気取りか……ッ」ギリッ

55: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:42:37.62 ID:5bQym7aBo
<1時間目休み時間・更衣室>

一夏(ラウラ・ボーデヴィッヒ)

一夏(千冬姉を教官って呼んでるから、たぶん、ドイツ軍人だ。千冬姉がドイツにいた頃の教え子なんだろう)

一夏(千冬姉に育てられたなら、千冬姉を敬愛しているのも納得できる)

一夏(むしろ自然の摂理だ。うんうん)

一夏(それに、ドイツ軍の関係者なら……)

一夏(俺の不甲斐無さのせいで、千冬姉が第2回IS世界大会の決勝をすっぽかしたことも知っているんだろう)

一夏(……)

一夏(困ったな)

シャル「一夏、着替えないの?」

一夏「あ。着替える着替える!」

シャル「急がないと遅刻しちゃうよ?」

シャル(ラウラ・ボーデヴィッヒ。あの人が言っていた追加のエージェント)

シャル(……)

56: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:44:43.84 ID:5bQym7aBo
<2時間目・グラウンド>

ラウラ「私と戦え、織斑一夏!」

一夏「断る」

シャル(い、いきなり一触即発の空気に……!?)

戒斗「ほう。織斑、挑まれた勝負から逃げるのか?」

シャル(ええっ!? あ、煽るの!? なんで!?)

一夏「……」

一夏「ラウラ。お前は何のために俺と戦いたいんだ」

ラウラ「知れたこと。貴様が教官の唯一の汚点だからだ。貴様がいなければ教官は第2回IS世界大会の優勝を飾っていただろう――私は、貴様の存在を許さない」

一夏「わかった」

一夏「俺は千冬姉の《雪片》を受け継いだんだ。汚点とまで言われちゃ、黙ってらんないね!」

ラウラ「ふん。何より気に喰わないのは、貴様が雪片を手にしていることだ」

一夏「何だと!」

ラウラ「それは、教官が築いた最強伝説の象徴。貴様如きが持っていていいものではない」

一夏「じゃあ、何だって言うんだ!」

ラウラ「知れたこと。――私との決闘に、雪片を賭けろ」

一夏「ッ!?」

ラウラ「どうした。負けるのが怖いのか?」

一夏「い、いいぜ! 雪片を受け継いだ時から、俺は千冬姉以外の誰にも負けられなくなったんだ。お前にだって、負けやしない!」

ラウラ「その意気だけは認めてやる。――行くぞ」

一夏「来い!」


千冬「やめろバカ共!」


ラウラ「教官!?」

一夏「千冬姉!?」

千冬「学校では織斑先生だと、何度言えばわかる。――それより。放課後なら何も言わんが、授業中は授業に集中しろ」

ラウラ「……了解しました」

千冬「よろしい。織斑もだぞ」

一夏「……はい」

千冬「……」

千冬「なあ、“一夏”」

一夏「千冬姉……?」

千冬「私の名を守るというお前の心意気は嬉しいがな。それは、授業をサボタージュした決闘の景品にできるほど安いのか?」

一夏「……!」

千冬「話はそれだけだ。ほら、とっとと授業に戻れ!」

一夏「はい!」

千冬(……)

千冬(駆紋の奴、一夏とラウラを焚きつけて何をさせるつもりだ……?)

57: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:45:44.36 ID:5bQym7aBo
<昼休み・屋上>

シャル「――っていうことがあったんだよ」

鈴「何よそのラウラって奴、腹立つわね!」

セシリア「まあまあ、鈴さん。……それにしても」

箒「一夏。お前、千冬さんのこと好きすぎないか……?」

戒斗「不治の病だな、あれは」

鈴「そうそう。……って、いつもならこの辺で突っ込みが飛んでくるはずなのに。おーい、どうしたのよ一夏。ぽけーとしちゃってさ」

一夏「いや、その」

箒「なんだ、だらしない。そんな調子で学年別トーナメントは大丈夫なのか?」

一夏「学年別トーナメント……?」

セシリア「月末に開かれる大会ですわ。全校生徒が参加する、一週間がかりのトーナメント戦ですの」

鈴「各学年の最強を決める、ってわけね」

一夏「各学年の……最強……?」

戒斗「そうだ。最強だ」

一夏「最強……」

一夏「それだ!」

鈴「と、突然立ち上がってどうしたのよ!?」

一夏「俺、ちょっと行ってくる!」

鈴「あ、ちょ、一夏! ……行っちゃった」

セシリア「あら」

箒「どうしたんだ、セシリア」

セシリア「駆紋さんとデュノアさんのお姿もありませんわ」

58: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:47:22.21 ID:5bQym7aBo
<食堂>

一夏「ラウラ!」

ラウラ「……貴様か」

一夏「学年別トーナメントだ!」

ラウラ「何の話だ?」

一夏「月末に、一年の中だけど、最強を決める戦いがある。そこでならラウラの挑戦を受けていい」

ラウラ「ふん。別に、雪片を賭けた戦いならここで初めてもいいんだぞ」

一夏「……」

一夏「お前にとっての雪片は、その程度のものなのか?」

ラウラ「……何だと」

一夏「雪片は千冬姉が残した最強伝説の象徴だ。昼休みの残り時間なんて、そんな何でもない時に賭けていいのかって聞いてるんだよ」

ラウラ「なるほど。確かに、雪片を賭けた勝負にはふさわしい時と場所が必要だな」

一夏「だから、学年別トーナメントだ」

ラウラ「いいだろう。ならば、その学年別トーナメントで決着をつけてやる!」

一夏「首洗って待ってろよ!」

ラウラ「それは私のセリフだ!」

「あれれー。でも、今年の学年別トーナメントってタッグマッチになるって噂だよー」

一夏「えっ」

「タッグマッチで、しかも一回戦なんかで二人が当たっちゃったら悲惨だよねー。なんか『最強を賭けた戦い!』って感じじゃないもんねー」

一夏「……」

ラウラ「……」

戒斗「ならば、こうすればいい」

一夏「戒斗!?」

戒斗「学年別トーナメントでは、織斑とボーデヴィッヒが組む。そして二人が優勝した暁には、雪片をかけた決闘を行う。これでどうだ」

ラウラ「ふんっ。こいつとタッグなんて組めるか!」

一夏「俺だって!」

戒斗「ほう。貴様らは織斑千冬の教えを受けておきながら、トーナメントの優勝すらできない弱者だというわけか」

一夏・ラウラ「「なんだと!」」

戒斗「くくっ、仲の良いことだ」

一夏「……ッ」

ラウラ「……い、いいだろう。この足手まといがいようと、私の優勝は変わらん」

一夏「な、なんだと! それはこっちの台詞だ!」

ラウラ「ふん」

戒斗「決まりだな」

シャル(……どうしてボーデヴィッヒさんと一夏を組ませるんだ、駆紋戒斗)

59: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:48:52.15 ID:5bQym7aBo
<放課後・アリーナ>

箒「駆紋とデュノアはどうしたんだ?」

一夏「部屋割りの関係で、シャルルとラウラがしばらく同室になるらしくてさ。シャルルはラウラの引っ越しの手伝いだって」

セシリア「駆紋さんは、ただ一言『用がある』と」

鈴「ふーん、珍しいわね」

一夏「……」

鈴「一夏?」

一夏「特訓を! 始めよう!!」

箒「い、一夏が燃えている……」

鈴「あんた、何で急にやる気になってんのよ」

一夏「それが――」

 ――事情説明中。

一夏「――ってわけで。雪片を賭けてラウラと戦うことになったんだ」

箒「……それは、つまりどういうことだ。一夏の雪片弐型は白式の専用装備だ。他人に譲渡はできないだろう」

一夏「ん? ああ。もう二度とISには乗らない、ってことだよ。――俺、ラウラに負けたらIS学園辞める」

鈴「は、はあっ!? あんた何言ってんの!?」

一夏「しょうがないだろ」

箒「バカだバカだとは思っていたが、どうやらお前は本物のバカなんだな……」

一夏「な、なんだとぉっ!?」

セシリア「……」

セシリア「けど。その勝負、そもそも成立しないのではなくて?」

一夏「へ?」

セシリア「織斑さん。学年別トーナメントで優勝する、ということがどんなことか、本当に理解していますの?」

鈴「あ……」

箒「そうか……」

一夏「な、何だなんだ!? 三人とも、どうしたんだよ」

セシリア「一年には、織斑先生を倒した駆紋さんがおりますのよ」

一夏「……あ」

鈴「あんた、戒斗に勝てるの?」

箒「昨日の駆紋の勝利が奇跡だった、という可能性も無くはないが……」

セシリア「それでも、織斑先生と互角に渡り合っていたという事実が損なわれることはありませんわ」

一夏「そうか……。戒斗に勝たなきゃならないのか……」

一夏「……」

一夏「俺、ラウラのとこに行ってくる!」

鈴「え!? ……行っちゃった」

箒「むう。……昨日といい、今日といい、駆紋の行動には謎が多い」

セシリア「そうですわね」

鈴「え? でも、目的はわかりやすくない?」

箒・セシリア「「え?」」

60: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:50:03.96 ID:5bQym7aBo
<学生寮・シャルとラウラの部屋>

ラウラ「――これで終わりだ」

シャル「ず、ずいぶんと大きな水槽だね」

ラウラ「教官からのいただきものだからな。これが、私の捧げられる最上級の敬意だ」

シャル「そ、そう」

シャル「……」

シャル「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

ラウラ「何だ? 引っ越しの手伝いをしてくれたことには感謝しているが、私は貴様と慣れ合うつもりは――」

シャル「君も、プロフェッサーのエージェントなんだよね?」

ラウラ「……」

ラウラ「そうだ。我がドイツはプロフェッサーの技術提供によって、トライアル段階でしかなかった第三世代IS《シュヴァルツェア・レーゲン》に量産化の目処をつけた。私がここにいるのは、我がドイツとプロフェッサーの取り引きの結果だ」

ラウラ「だが、私は駆紋戒斗の命に興味は無い。プロフェッサーの手駒になるつもりもだ」

シャル「どうして!?」

ラウラ「教官ならそうするから、だ」

シャル「……ッ!」

シャル「君は!」

 ――コンコン

ラウラ「おや、客人のようだ。それとも、客人を放置して言い争いをするのがフランス流か?」

シャル「……」ギリッ

61: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:50:52.39 ID:5bQym7aBo
<裏庭>

千冬「よう。ずいぶんと精力的に働いているじゃないか」

戒斗「ふん。貴様も片棒を担いでいたではないか」

千冬「一夏のためになるなら、私は何でもするさ」

戒斗「ブラコンめ」

千冬「ふっ。あれは私に残された最後の家族だ。大切にして何が悪い」

千冬「それに。貴様とて、やっていることは私と同じではないか」

戒斗「……ふん」

千冬「駆紋。一つ教えてやる」

千冬「あいつは、じいさんによく似ているよ」

戒斗「……」

戒斗「ふん」

62: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:52:25.72 ID:5bQym7aBo
<屋上>

ラウラ「――それで。いったい何の用だ、“相棒”殿」

一夏「……一緒に」

ラウラ「ん?」

一夏「一緒に特訓しよう、ラウラ」

ラウラ「ハッ。バカを言うな。誰が貴様と特訓など――」

一夏「一年に、千冬姉に勝った奴がいる」

ラウラ「……何だと?」

一夏「信じられなければ、千冬姉に聞けばいい。何なら今なら聞きに行くか?」

ラウラ「……」

ラウラ「いいだろう」



<学生寮・シャルとラウラの部屋>

戒斗「よう」

シャル(駆紋戒斗……!?)

戒斗「用件は一つだ。シャルロット・デュノア。学年別トーナメントで、俺と組め」

シャル(な、何を言っているんだ……!?)

シャル(自分を殺そうとしている人間と組むなんて、そんなのバカげてる!?)

シャル(でも……。彼は僕を『シャルロット』と呼んだ)

シャル(脅しのためだ。断れば、性別を偽って入学したことをバラすと、暗示している……)

シャル(そうなれば、僕はあの人の望みを叶えられなくなる……)

シャル(……)

シャル「とても君に利益のある提案だとは思えないけど」

戒斗「用件は告げた。じゃあな」

シャル「ま、待て! ……」

シャル「……ッ」

シャル「いったい何なんだよアイツはッ!?」

63: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:53:37.59 ID:5bQym7aBo
<職員室>

ラウラ「教官、聞きたいことがあります」

千冬「学校では……まあ、いいか。どうしたんだ、二人共」

一夏「千冬姉。正直に答えて欲しいんだ」

千冬「ほう?」

ラウラ「その……。ありえない話を耳にしまして。恐縮ですが教官自身に確認を
……」

千冬「前置きはいい、本題に入れ」

ラウラ「ハッ! ……その。教官がIS戦で負けた、と」

千冬「何だ、その話か」

ラウラ「ありえませんよね。あの、無敵の教官が――」

千冬「負けたぞ」

ラウラ「!?」

千冬「昨日、打鉄同士の決闘で敗北した。私に勝ったのは、一年の駆紋戒斗だ」

ラウラ「そんな!? ど、どうして教官が!」

千冬「私とて完璧ではない。負けることもある」

ラウラ「けど!」

千冬「くどい!」

ラウラ「……!?」

一夏「千冬姉」

千冬「何だ?」

一夏「お願いがあるんだ」

一夏「戒斗に勝つために、試してみたいことがある」

64: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:54:33.41 ID:5bQym7aBo
<学生寮・シャルとラウラの部屋>

ラウラ「――という理由で部屋変えだ。シャルル・デュノア」

ラウラ「よかったなあ。これで、暗殺の機会が増えるぞ?」

シャル「絶対に成功しないって顔をしておいて、よく言うよ」

ラウラ「当然だ。教官に勝利した男が暗殺なぞで死ぬものか」

シャル「……はあ」

シャル(一夏の提案で、僕と一夏の部屋を交換することになったらしい)

シャル(学年別トーナメントまでに、少しでもボーデヴィッヒさんとの連携を強化するためだとか)

シャル(いくら男子が入れ替わるだけって言ったって、こんな我ままが通ってしまうなんて)

シャル(一夏はシスコンだってわかってたけど、織斑先生も相当のブラコンみたいだね……)

シャル(駆紋戒斗)

シャル(これも、君の書いたシナリオ通りの展開なの?)

66: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:55:59.72 ID:5bQym7aBo
<学生寮・1025室>

一夏「――ってわけで、ちょっと引っ越してくる!」

戒斗「ふん。ずいぶんとやる気だな」

一夏「ああ。戒斗、絶対にお前に『まいった』って言わせてみせるからな!」

戒斗「そのために、嫌われている人間と同室になってもか?」

一夏「それなんだけどさ。俺、ラウラとは仲良くやれそうな気がするんだ」

戒斗「ほう?」

一夏「ラウラって、千冬姉が好きすぎるだけなんだよ。それだったら俺、やっていける気がする」

戒斗「……」

戒斗(ここが別れ道、だな)

戒斗「……」

戒斗「あれは救えん女だ。心を許すのは止めておけ」

一夏「え……?」

戒斗「ラウラ・ボーデヴィッヒが織斑千冬を好きすぎる。確かに、そうだろう。あいつはな、『織斑千冬になりたがっている』」

戒斗「自分に自信が持てず、他人になろうとする――最悪の弱者だ」

戒斗「だから救えない。戦う力、弱い者を踏みにじる力を持つ分、なお悪い」

一夏「……」

一夏「俺は、そうは思わない。だって――」

戒斗「それは、貴様もまた同じ種類の弱者だからだ」

一夏「!? 戒斗、お前!」

戒斗「悔しければ――強さを示せ!」

戒斗「己が弱者ではないというならば、ボーデヴィッヒは救える女だというならば、言葉ではなく強さを見せつけることで証明してみせろ!」

一夏「……ッ」

一夏「いいぜ、やってやる! 戒斗! お前に勝って、俺とラウラが『最悪の弱者』なんかじゃないって証明してやるよ!」

戒斗「ふん。――やれるものなら、やってみろ」

一夏「そっちこそ、首洗って待ってろよ!」

戒斗「……」

戒斗「……行ったか」

戒斗「ふっ。はは、ははははははははは!」

戒斗「これでは、織斑千冬のことを笑えんな」

67: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:57:33.82 ID:5bQym7aBo
<学生寮・ラウラの部屋>

一夏「今日からよろしく!」

ラウラ「荒れてるな、同居人」

一夏「ちょっとな! ……ったく、戒斗の奴。絶対にぶっ倒してやるからな」

ラウラ「まったく、騒がしい奴だ」

一夏「性分だ!」

ラウラ「バカもか?」

一夏「そうだ!」

ラウラ「そうか」

一夏「そうだ! ……」

一夏(あれ?)

一夏「ラウラ。その水槽って……もしかして千冬姉から?」

ラウラ「そうだ。これは教官から賜った、私の家族だ。あの子を教官だと思って、今日まで大切に育ててきた」

一夏「そっか」

ラウラ「ど、どうしてそんな顔で私を見る」

一夏「いやさ。俺、やっぱりラウラとは上手くやっていけると思うんだ」

ラウラ「バカを言うなバカ」

一夏「あはは。だって、ラウラは――カメ子の子供を大切にしてくれていたんだろう?」

ラウラ「それは……」

一夏「千冬姉はさ、信頼した人間にしかカメ子の子供を里子に出さないんだよ」

一夏「よろしくラウラ。それと、カメ子の子供を大切にしてくれていて、ありがとう」

ラウラ「む、むう……」

68: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 13:58:50.16 ID:5bQym7aBo
<学生寮・1025室>

シャル「こっちに来る時、一夏と少し話したよ。すごい剣幕だった」

戒斗「そうか」

シャル「君は何をしようとしているの?」

戒斗「さあな」

シャル「……」

シャル「どうして君は、自分を必要としてくれている人に嫌われるようなことをしたの?」

戒斗「……」

シャル「……」

戒斗「下らん」

シャル「え……?」

戒斗「人間なぞ、誰に求められずとも生きるものだ」

戒斗「ならば。生きるのは誰かのためではない。自分のためだ」

シャル「……」

シャル「でも。それじゃあ、一人ぼっちになっちゃうよ……」

戒斗「ふん」

戒斗「自分勝手に生きようと、意外と、一人にはなれんもんだ」

戒斗「例え世界の敵になろうとも、な」

シャル「……」

シャル(嘘だ)

シャル(じゃあ、どうして僕は一人ぼっちになったのさ)

78: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:21:35.58 ID:5bQym7aBo
■第四幕 絆
<夢の中・沢芽市>

 ――ガキの頃から、俺はずっと耐えてきた。弱さという痛みにな!

戒斗「ユグドラシルタワー……。そうか、これは夢の中か」

戒斗「……」

戒斗「強者は、一方的に弱者を踏みにじる」

戒斗「あのユグドラシルタワーが、父から工場を奪ったように……」

 ――弱さや痛みしか与えない世界! 強くなるしか他になかった世界を、俺は憎んだ!

 ――俺は力を手に入れた。この力を使って、古い世界を破壊する。

 ――今の人間では決して実現できない世界を、俺が、この手で造り上げる。

 ――誰かを虐げるためだけの力を求めない。そんな新しい命で、この星を満たす!

戒斗「……ふっ」

戒斗「はは、ははははは!」

 ――誰もが強くなるほどに優しさを忘れていった。

戒斗「そして、優しい奴から先に死んでいった」

戒斗「だから俺は、この世界では、誰も優しいままに強くなることはできないと思っていた」

戒斗「……」

戒斗「俺は最初から諦めていたんだ」

 ――何故だ、葛葉。何がお前をそこまで強くした。

戒斗「ふん」

戒斗「泣きながら進むと言い切ったあのバカこそが、本当の強者――仮面ライダーだ」

戒斗「……」

戒斗「俺の、憧れだ」

79: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:22:44.59 ID:5bQym7aBo
 ――学年別トーナメントまでの日々は、あっという間に過ぎていった。



鈴「そういえば箒。一夏はラウラと組んじゃったけど、あんたどうすんの?」

箒「そ、その」

鈴「うん?」

箒「私と組んでくれないか、鈴……?」

鈴「もちろんオッケーよ! よろしくね、箒!」

箒「あ、ああ!」



ラウラ「不本意だ」

一夏「何がだよ!?」

ラウラ「私のシュヴァルツェア・レーゲンと貴様の白式の相性が悪くない、ということがだ!」

一夏「いいだろう、俺達今はコンビなんだからさ!」

ラウラ「……」

ラウラ「不本意だ」

一夏「だーかーらー!」



セシリア「……」

セシリア「余りましたわ……」

セシリア「駆紋さんはデュノアさんと、織斑さんはボーデヴィッヒさんと、鈴さんは箒さんと、それぞれ組まれました」

セシリア「……」

セシリア「い、いえ、落ちつくのよセシリア・オルコット。貴族はうろたえないのよ……!」

セシリア「……」

セシリア「はあ……」

クラスメイト2「オ・ルコット」

セシリア「あ、あなたは神代の……!?」

クラスメイト2「私と組め。君ならば、高貴な私と並ぶことも許そうではないか」

セシリア「その不遜な態度――今は不問として差し上げますわ」

セシリア「いいでしょう。このセシリア・オルコットが、貴女のパートナーとなりましょう!」

クラスメイト2「ふふっ。――ところで」

セシリア「?」

クラスメイト2「私はオリムラに押し切られるク・モーン、というものに興味がある」

セシリア「!」

セシリア(同志……!)

80: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:23:21.95 ID:5bQym7aBo
シャル「……」

戒斗「……」

シャル「……」

戒斗「……」

シャル(気まずい……)



鈴「え゛。篠ノ之博士から専用機が送られてきたって!?」

箒「あ、ああ。《紅椿》という……だ」

鈴「だ?」

箒「第四世代IS、らしい……」

鈴「は、はあっ!?」



 ――そして、大会前日。

81: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:24:35.46 ID:5bQym7aBo
<黄昏時・病室>

貴虎「呼び付けてしまって、すまなかったな」

戒斗「気にするな。また羊羹を作ってきたが……」

貴虎「……すまない」

戒斗「気にするな」

 ――ベッドに横たわる貴虎には、死相が浮かんでいた。

貴虎「二日前に倒れてな。それきり、立ち上がれなくなった。ふっ、私も歳だな」

戒斗「……」

貴虎「駆紋。織斑一夏は、どうだ」

戒斗「あいつは、俺になりたいそうだ」

貴虎「ふっ。くく、ははははは。それで。その不満顔は何が原因だ」

戒斗「俺の生き様と死に様は貴様も知っているだろう」

貴虎「ああ、よく知っている。だがな、駆紋。――子育てとはままらないものだよ」

貴虎「光実にも、我が子にも、散々思い知らされた。子育ては本当に難しい」

戒斗(ふん。楽しそうな顔をしおって)

貴虎「織斑一夏に見どころは無いか?」

戒斗「……」

戒斗「アイツはバカだ」

82: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:25:40.74 ID:5bQym7aBo
戒斗「だが」

戒斗「だからこそ、あいつが本当の強さを示すことができたなら――俺も、もう一度この世界を信じてみようと思う」

貴虎「くくく。――ああ、今日は良い日だ」

貴虎「駆紋。子供はな、いつまでも子供なようでいて、ある時に急に成長してみせる。その時を楽しみにしているといい」

貴虎「さて――。君を呼んだのはこの老人の弱り切った姿を見せるためでは、もちろん、無い」

貴虎「君の専用機を用意してある。これで反応の問題に悩まされることもなくなるだろう」

戒斗「よくコアが手に入ったな。ISのコアは世界に467個しかないのだろう」

貴虎「ISのコアはヘルヘイムの果実だ。ならば、ロックシードもまたコアになれるだろう?」

戒斗「まさか……」

貴虎「そう。君のISのコアは、私の使っていたメロンロックシードだ」

貴虎「そして、機体の名は――斬月」

戒斗「……」

戒斗「バロンではないのか?」

貴虎「君の専用機の名は、斬月だ」

戒斗「そうか」

貴虎「そうだ」

戒斗「……」

83: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:26:40.62 ID:5bQym7aBo
戒斗「お前、死ぬのか?」

貴虎「だろうな」

戒斗「そうか」

貴虎「IS。そして、その影に隠れる大きな悪意。それを残したまま死ぬのは心残りだがな……」

戒斗「――貴虎」

貴虎「何だ?」

戒斗「貴様は五十年もの長きに渡り、贖罪のために生き続けたな」

貴虎「……そうだ。かつて私が犯した過ちは、一生をかけて償うべきものだった」

戒斗「理由がどうであろうと、貴虎は生涯をかけて人々を救い続けた」

貴虎「駆紋?」

戒斗「不断の意思を貫き、贖罪に身を捧げ切った貴様は――本当に、強い」

貴虎「――フッ」

貴虎「神の座に至った君に認められたとあれば、私も、失敗ばかりの人生を誇ってもいいのかもしれんな」

戒斗「くくっ。いずれ、呉島光実に自慢するといい」

貴虎「ああ、そうさせてもらおう」

貴虎「すまないが、疲れてしまったよ。少し眠る」

戒斗「ああ。斬月はありがたくいただいて行く」

貴虎「……」

貴虎「…………」

貴虎(ありがとう、駆紋戒斗……)

84: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:27:51.19 ID:5bQym7aBo
<学生寮・一夏とラウラの部屋>

ラウラ「何だ、この料理は……」

一夏「俺が作ったんだよ」

ラウラ「そ、そんなものが食えるか!」

一夏「なにおう! これはな、千冬姉が勝負の前には必ず食べる料理なんだぞ!」

ラウラ「こ、これを教官が……!?」

一夏「そうだ! 何せ、働いている千冬姉の代わりに、家事は全部俺がやってたんだからな!」

ラウラ「教官が食べた料理……」

一夏「聞いてねえ……」

ラウラ「た、食べていいか!?」

一夏「ラウラと一緒に食べようと思って作ったんだ。遠慮なく喰ってくれ!」

ラウラ「……。い、いただきます」

ラウラ「! うまい!」

一夏「だろ?」



<学生寮・1025室>

『問題無い。君とボーデヴィッヒ君の機体には特別なシステムが組みこんであってね。いざとなればそれを使えばいい』

シャル「特別なシステム、ですか……?」

『そうだ。神の如き力を得る、究極のシステムだよ。起動は音声認識だ。コードは『T・T』。その時が来たら使いたまえ』

『では。期待しているよ、可愛いシャルロット』

シャル「はい!」

シャル「……」

シャル「……僕はもう、二度と一人ぼっちになりたくない」

シャル「僕を必要としてくれる人がいるなら、僕は……」

85: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:29:29.90 ID:5bQym7aBo
<大会初日・第1ブロック1回戦第1試合・アリーナ>

ラウラ「ほら、AIC《慣性停止結界》で一人捕まえてやったぞ」

セシリア「これがAIC!? う、動けませんわーーー!?」

一夏「零落白夜、起動!」

セシリア「う、うわーーーですわ!?」

 ――勝者! 織斑・ボーデヴィッヒペア!

ラウラ「――ふむ」

ラウラ「さすが雪片だ」

一夏「俺だってがんばっただろう!?」

ラウラ「貴様なんぞ教官の伝説を間借りしているだけにすぎん!」

一夏「な、なんだとぉっ!?」



<アリーナモニタールーム>

千冬「あいつら……。国家や企業の視察も兼ねている大会で、痴話喧嘩なんぞしおって」

山田「あはは。でも、織斑君とボーデビッヒさん、いいコンボですよ。シュヴァルツェア・レーゲンの制圧力と白式の爆発力を組み合わせて、上手く連携してます」

千冬「ふん。あれくらいできて当然だ」

山田「ふふっ。教え子二人が仲睦まじくてほっとしますね♪」

千冬「――山田先生。ちょっと、私とIS訓練をしようか?」

山田「ひえっ!? ご、ご勘弁を!」

千冬「ふん」

山田「し、篠ノ之さんのISも注目ですね!」

千冬「……。そうだな」

山田「第四世代IS《紅椿》。世界がまだ第三世代ISの開発に四苦八苦しているところに現れた、篠ノ之博士のIS……」

千冬「ったく、束の奴、何を考えているんだか」

山田「妹さんが可愛いんじゃないんですか?」

千冬「そういう単純な理由ならいいんだが……」

山田「対戦カードも注目ですよ。その第四世代ISと対決するのは――世界でただ一人、織斑先生に勝利したIS操縦者。駆紋戒斗君です! 乗機は訓練機の打鉄ですが、だからこそどんな勝負になるか――」

千冬「山田先生」

山田「何でしょう?」

千冬「どうやら、そういう勝負ではないようだ」

86: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:30:23.94 ID:5bQym7aBo
<第4ブロック1回戦第1試合・アリーナ>

鈴「戒斗! 千冬さんに勝ったからって調子に乗らないことね。行くわよ、箒!」

箒「ああ! IS展開」

シャル(あれが紅椿……。第三世代機を遥かに凌駕する機体性能を持ちながら『即時万能対応機』となった、第四世代IS……)

鈴「……戒斗。あんた、打鉄はどうしたのよ?」

戒斗「ふん」

戒斗「お節介な老人がいてな」

シャル(え?)

箒「……ロックシード? だが、表に描かれている、三日月飾りの武者のような顔は……」

 ――斬月!

 ――ロック・オン

戒斗「変身」

 ――ソイヤ!

鈴「ぶっ!? そ、空から顔が降ってきたーーーーーー!?」

 ――斬月アームズ! メロン・御免!



<アリーナ・モニタールーム>

山田「バナナに引き続き、今度は顔が……」

千冬「……」

千冬(あれは斬月の顔。となると、呉島さんか……)

87: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:31:09.18 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

鈴「な、ななな、何よそれ!」

戒斗「見ての通りISだ」

鈴「ISって……」

鈴「た、確かにサイズはISだし……」

鈴「第一世代みたいな、全身装甲《フルスキン》型だと思えばISに見えなくもない……?」

箒(……)

箒(白を基調に、緑のブレストプレートとショルダーアーマーを持つIS。手にはメロンを象った盾を持ち、腰には黒いベルト――戦極ドライバー型の端末)

箒(まさか、お父様が……? いや、そんなはずは……)

戒斗「……」

戒斗「巨大な盾などいらん。戦いは攻撃あるのみだ!」

シャル(た、盾は捨てるんだ……)

88: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:32:18.28 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・モニタールーム>

山田「し、試合開始しました。駆紋君がすごい勢いで押してます!」

千冬「どうやら、あのISは駆紋が無理なく動かせるように調整されているようだな」

山田「どういうことですか、織斑先生?」

千冬「いや、忘れてくれ」

山田「……?」

千冬(ISは、駆紋にとっては拘束具でしかなかった。それが、枷を外すどころか翼になった。これは強いぞ)

千冬(どうする、一夏、ボーデヴィッヒ)



<アリーナ>

鈴「なんで!? 龍砲の軌道が全部読まれてる!? 射角なんて見えない武器のはずなのに!」

箒「おそらく、駆紋には元々読めていたんだ。そしてあのISは、駆紋の反応に忠実に追従するのだろう」

鈴「なるほど。……確かに、打鉄に乗ってた時みたいな、運動音痴みたいな動きじゃないもんね」

箒「そして、私は今、とても嫌な想像をしている」

鈴「攻撃がさっぱり当たらない、こっちはボロボロ! これ以上どう悪くなるのよ!」

箒「……あの機体。初期化《フィッティング》と最適化《パーソナライズ》がまだなんじゃないか、とな」

鈴「うそ……。ここから一次移行《ファーストシフト》するって言うの!?」

箒「おそらく……」

鈴「……」

鈴「あ。戒斗のISが光ってる……」

箒「一次移行、だな……」

鈴「えー……」

箒「さらに、その。言いにくいんだが……」

鈴「何よ、言ってみなさいよ……」

箒「紅椿は、その。高性能と引き換えに……」

鈴「?」

箒「燃費が悪い。私はエネルギー切れだ」

鈴「……」

鈴「ぎゃふん」

89: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:33:12.17 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・モニタールーム>

山田「篠ノ之さん凰さんペア、降参しました」

千冬「……はあ」



<アリーナ・観客席>

ラウラ「あれが、教官に勝利した男……」

一夏「ん? 怖気づいたのか、ラウラ」

ラウラ「ば、バカを言うな! ……と言いたいところだが、悔しいかな。ああも圧倒的な力を見せつけられれば、怖れも抱く。駆紋戒斗は恐ろしい戦士だ」

一夏「そっか」

ラウラ「な、何だその反応は。お前は奴の強さが分からないのか」

一夏「戒斗の強さなんて、IS学園に入学してからずっと見せつけられてるよ。アイツがあれくらいやっても、不思議じゃない」

一夏「でも」

一夏「勝てないわけじゃない」

ラウラ「……」

ラウラ「ふっ、頼もしい限りだ」

ラウラ(……。一瞬、織斑一夏の横顔に教官が重なった)

ラウラ(少々弱気になりすぎたか……)

90: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:34:27.36 ID:5bQym7aBo
<放課後・学生寮1025室>

シャル「はい。おそらく、駆紋戒斗と僕のペアは、ラウラ・ボーデヴィッヒと織斑一夏のペアと決勝で当たると思われます」

シャル「はい。――決行は、決勝戦で駆紋戒斗が消耗した瞬間。了解しました」

シャル「――必ず。必ず、やり遂げてみせます。あなたのために」

シャル「……」

シャル(駆紋戒斗は強い。今日の試合を見て、鮮烈に見せつけられた)

シャル(彼は対戦相手を一人でねじ伏せていった)

シャル(ペアの僕の存在なんて、初めからなかったかのように……)

シャル(僕だって確かにあの空間にいたのに、まるで空気みたいに無視された)

シャル(フランスにいた頃みたいに)

シャル(……)

シャル(やめよう。今の僕には、必要としてくれる人がいるんだから)



 ――そして、大会期間は過ぎていった。

91: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:35:36.17 ID:5bQym7aBo
<決勝前夜・学生寮・一夏とラウラの部屋>

一夏「っていうわけで。一週間ぶりの、勝負メニューだ!」

ラウラ「……」

一夏「なんだよ、渋い顔して」

ラウラ「貴様の作る飯が美味いのが、気に喰わない」

一夏「なんでだよ!?」

ラウラ「……ふん」

ラウラ「本当に、飯は美味いな……」

一夏「俺にできることって、これくらいだったからな」

一夏「強くなりたかったけど、どうすればいいかわからなくて。でも、じっとしてはいられなくて」

一夏「……」

一夏「ラウラは知ってるんだろ? 千冬姉がドイツに行った経緯、って奴をさ」

ラウラ「ああ。第2回IS世界大会決勝戦の当日に誘拐された貴様を、大会を放り投げた教官が助けに行った。その時に、教官に貴様の居場所を教えたのが、我がドイツだった」

ラウラ「教官はその時の取り引きの結果、我がドイツに……。ということだろう」

一夏「そうだ」

一夏「――怖かった」

一夏「知らない人に掴まれて、暗い場所に閉じ込められて、拳銃を突きつけられた。銃口から、かすかに硝煙のニオイがただよっていたことを、今でも覚えているよ……」

一夏「……」

一夏「強者は、一方的に弱者を踏みにじる」

ラウラ「……」

92: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:36:54.43 ID:5bQym7aBo
ラウラ「そうだな。弱肉強食はこの世のルールだ。強ければ全てを手に入れ、弱ければ全てを失う」

ラウラ「身を持って、思い知ったよ」

一夏「……。もしかして、ラウラもずっと耐えてきたのか?」

ラウラ「何にだ?」

一夏「弱さや痛みしか与えない世界に、かな」

ラウラ「……ふふっ」

ラウラ「私はな、鉄の子宮から生み出されたデザインベビーだ」

ラウラ「軍に造り出された私は、強くなるしかなかった。――だが、できる限りの努力はしたが。私は、弱者になった」

ラウラ「踏みにじられたよ、魂を。あの頃は、とても痛かった……」

ラウラ「そんな時に現れたのが、教官だった。あの人は強く、凛々しく、堂々としていた。その、自分を信じる姿に焦がれたよ」

ラウラ「――ああ、こうなりたい。この人のようになりたい」

ラウラ「その想いは、まだ、胸にある」

ラウラ「いいや。――その想いこそ、私の全てだ」

一夏「なんだ。じゃあ、俺達って本当に似たもの同士なんだな」

ラウラ「バカを言うな。私と貴様が似ているものか。何せ貴様は教官への尊敬が――」

一夏「俺は、戒斗になりたい」

ラウラ「――…………」

一夏「不屈の魂を燃やして何度でも立ち上がり、最後には必ず勝利する」

一夏「駆紋戒斗の不撓不屈が、俺の憧れなんだ」

ラウラ「……そうか」

ラウラ「……」

ラウラ「お前の飯が美味いこと。まあ、許してやろう」

一夏「あはは、何だよ、それ」

一夏「……」

一夏「なあ、ラウラ」

ラウラ「何だ」

一夏「俺は戒斗になりたい。でも、それ以上に大きな想いが胸にあるんだ」

ラウラ「それは?」

一夏「『戒斗に勝ちたい』」

ラウラ「……」

一夏「ラウラはどうだ? 千冬姉に勝ちたいって思ったことは、ないか?」

ラウラ「教官に勝つ、か……。考えたこともなかった」

一夏「そっか」

ラウラ「そうだ」

ラウラ「だが」

ラウラ「熟考に値する」

93: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 19:38:13.75 ID:5bQym7aBo
<学生寮・1025室>

シャル「……」

戒斗「……」

シャル(大会期間中、僕達に会話らしいものなんてなかった)

シャル(殺さなきゃいけない相手だ、下手に心を通わせて情が沸くよりずっといい)

シャル(…………)

戒斗「デュノア」

シャル「……何かな?」

戒斗「貴様は誰だ?」

シャル(……?)

シャル「君は知っているんでしょ。シャルル・デュノア。君を殺しに来た、エージェントだよ」

戒斗「そうなる前は、誰だった?」

シャル「……それも、知っているんでしょ。シャルロット・デュノア。デュノア社の社長の、愛人の子供だよ」

戒斗「ならば、俺を殺した後は誰になる?」

シャル「え……?」

戒斗「――俺は、駆紋戒斗だ」

シャル「そ、そんなことは知ってるよ!」

戒斗「五十年前も、今も、俺は駆紋戒斗だ。それ以外の何者でもない」

シャル「き、君は何を言いたいんだッ!」

戒斗「……」

戒斗「未来は己の手で勝ちとってみろ」

シャル「は、はあ!? わけがわからないよ!」

戒斗「神託とでも思え」

シャル「…………」

シャル(ほんと、何なのこの人……)

シャル(……)

シャル(僕は駆紋戒斗が、嫌いだ)

101: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:22:40.80 ID:5bQym7aBo
<決勝戦当日・観客席>

セシリア「やはり、駆紋さん達と織斑さん達が勝ち上がりましたわね」

箒「一夏に勝って欲しいところだが……。駆紋は、強い」

鈴「ここまでの対戦相手、ぜーんぶ一人で倒しちゃったもんね」

セシリア「駆紋さんは元々修羅場を潜られているようでしたから、本来の力が発揮できているのなら、不思議でも何でもありませんわ」

鈴「へー。ふーん。ほー」

セシリア「そ、その意味ありげな目線は何ですの!?」

鈴「べっつにー」

鈴「けど」

鈴「……となると、やっぱ勝つのは戒斗かなぁ」

箒「むう……」

クラスメイト3「しかし、ここで織斑君に賭けるのもまた欲望!」

鈴「うわ!? あ。1組の……」

セシリア「非公式トトカルチョの元締めさん……」

クラスメイト3「さあさあ、張った張った! 織斑君が勝てば莫大なリターンを得られるよ!」

鈴「それって、誰も一夏には賭けてないってことじゃない……」

箒「よし。私は有り金みんな一夏に賭ける!」

鈴「ほ、箒!?」

箒「一夏は勝つ! 必ず勝つ! だって……あいつは、織斑一夏なんだ!」

鈴「……」

鈴「いいじゃない! あたしも一夏に全賭けよ!」

クラスメイト3「すばらしい!」

セシリア「……」

セシリア「あ、ならわたくしは駆紋さんに」

102: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:24:27.99 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・モニタールーム>

山田「織斑君ペアと駆紋君ペア、どっちが勝ちますかね~」

千冬「正直、わからん」

山田「そうなんですか? 駆紋君優勢の声が大きいですけど」

千冬「確かに駆紋は強い。だが、これはタッグマッチだ。駆紋はパートナーを無視して戦っているが……」

千冬「逆に、織斑とボーデヴィッヒはよくよく連携を仕上げてきている」

山田「なるほど。うーん、教師的には織斑君ペアに勝ってもらって、みんなに協力の大切さを学んで欲しいところですね」

千冬「……」

千冬(だが、生半可な連携では駆紋一人にも勝てないのもまた事実だ。どこまでやれる、一夏、ラウラ)

103: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:25:23.54 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

一夏「よう戒斗。ぶっ倒しに来たぜ!」

ラウラ「2対2ではあるが、貴様を倒して教官の汚名を雪ぐ!」

戒斗「ふん」

戒斗「貴様ら、雪片を賭けた決闘の話はまだ覚えているか?」

一夏・ラウラ「「あ……」」

戒斗「くくっ。つまらない試合ばかりだったが、少しは楽しめるかもしれんな」

シャル(……相変わらず、僕は『いない子』扱いだ)

戒斗「……」

シャル(え? こっちを見た……?)

戒斗「ふん」

戒斗「始めるか」

一夏「おう! 白式展開!」

戒斗「変身」

 ――斬月アームズ! メロン・御免!

104: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:26:14.74 ID:5bQym7aBo
<観客席>

セシリア「やはり盾は捨てますのね……」

鈴「まあ、あの性格に盾は合わないっしょ」

箒「それに、一夏の零落白夜相手には無意味だろうしな」

生徒・戒斗派のみなさん「「戒斗様カッコイー!!」」

生徒・一夏派のみなさん「「織斑くーん! がんばってー!!」」

生徒・シャル派のみなさん「「きゃー! デュノアくんこっち向いてー!!」」

セシリア「あれは……?」

鈴「ほら、みんなイケメンだから」

セシリア「ああ……」



<アリーナ>

一夏「フォーメーションWで行くぞ、ラウラ!」

ラウラ「いいだろう。だが、貴様が仕切るな!」

一夏「えー……」

シャル(来る……! え……?)

戒斗「――ほう。てっきり、逆に動くと思っていたが」

ラウラ「ふん。駆紋戒斗、まずは私と戦ってもらう」

一夏「シャルル! お前の相手は俺だ!」

シャル(ボーデヴィッヒさんが駆紋君に、一夏が僕に突っ込んでくる……!?)

105: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:27:04.81 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・モニタールーム>

山田「織斑先生、これは?」

千冬「まずはデュノアを叩く作戦だろう。あいつには、やる気が無い。しかる後に、2対1で駆紋に挑む、ということだろうな」

山田「ボーデヴィッヒさんではなく織斑君がデュノア君に向かった理由は……?」

千冬「織斑の白式は燃費の悪い短期決戦機。ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンには、時間稼ぎ向きのAIC《慣性停止結界》がある」

山田「ああ。ボーデヴィッヒさんが駆紋君相手に時間稼ぎをしている間に、織斑君が急いでデュノア君を倒す、という。……でも、そんなに上手くいくでしょうか?」

千冬「そうするしかない、というのが正しい。できなければ負けるだけだ」



<アリーナ>

シャル(……そうだ)

シャル(あの人は言った。決勝戦で消耗した駆紋戒斗を暗殺する、と)

シャル(なら僕ががんばる必要はない)

一夏「――これでトドメだ!」

シャル「ぐうっ!?」

 ――シャルル・デュノア機 機能停止

一夏「うわ!? だ、大丈夫かシャルル!?」

シャル「うん、大丈夫だよ。それより、ボーデヴィッヒさんが待ってるんじゃないの?」

一夏「そうだな。じゃ、またな!」

シャル(これでいい)

シャル(僕が勝つ必要は無いんだもの)

シャル(だから、負けていいんだ……)

106: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:27:53.77 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・観客席>

鈴「ずいぶんあっさり負けたわね」

進ノ介「いや。あれはわざと負けたんだ」

鈴「あー、やっぱり? なんとなくそんな気が……。って、今の誰!?」

箒「どうかしたか、鈴?」

鈴「いや、今、知らない人に相槌を打たれたような気が……」

箒「……」

箒「まさか、幽霊……?」

鈴「こ、怖いこと言わないでよ!?」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「織斑君ペア、上手く2対1の形にもっていきましたね」

千冬「ああ。だが、本当の戦いはここからだ」

107: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:28:50.19 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

戒斗(織斑とボーデヴィッヒのコンビは、よく仕上がっている)

戒斗(ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンで面制圧を仕掛けながら、隙を見て白式が突撃する。2対1になれば、AIC《慣性停止結界》による拘束で詰みだ)

戒斗(並の相手なら、な)

ラウラ「教官を倒した男よ。貴様の強さは、その程度か!」

戒斗「焦るな。俺の力を――見せつけてやる!」

戒斗(AICがエネルギー兵器に弱いことはわかっている)

戒斗(一次移行で発現した、あの機能を使う……!)



<アリーナ・観客席>

セシリア「べ、ベルトを外しましたわー!?」

鈴「あ! でも、今度は赤いベルトが出てきた!」

セシリア「ああっ!? そ、空からメロンが降ってきましたわ!」

箒「いや、あれはただのメロンではない」

鈴「!?」

箒「――夕張メロンだ」

108: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:29:44.83 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

 ――メロンエナジーアームズ!

ラウラ「姿が変わった!? あの機体は、戦闘中にパッケージを交換できるのか……!?」

戒斗「驚いている暇は無いぞ!」

ラウラ「エネルギー弾……! だが、空など撃って何になる!」

戒斗「フッ」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「く、駆紋君が空に向けて撃ったエネルギー弾が、メロンのオバケになりました……!?」

千冬「あれは……」

山田「ああ!? メロンのオバケから、エネルギー弾が雨みたいに降り注いでます!?」



<アリーナ・観客席>

セシリア「完全に虚を突かれましたわね。ボーデヴィッヒさんはこれで脱落でしょう」

箒「いや……」

鈴「あのバカがいるわ!」

109: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:30:26.28 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

戒斗「……ほう」

戒斗「零落白夜でエネルギー弾を切り裂いたか」

一夏「待たせたな、ラウラ」

ラウラ「……」

ラウラ「ふ、ふん。待ちくたびれたぞ」

一夏「ごめんって。でも……」

戒斗(ん……?)

一夏「ここからは、俺達のステージだ!」

戒斗(……)

戒斗「くくっ。いいだろう、かかって来い!」

110: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:31:19.88 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・観客席>

セシリア「戦況が一気に変わりましたわね」

箒「ああ。駆紋にボーデヴィッヒのAICを警戒させながら、確実にシールドエネルギーを削っている」

鈴「でも……。戒斗の短弓、あれ、良い武器ね。遠距離はエネルギー弾、近距離は本体のブレード、あれ一つで完結してて隙が無いわ」

セシリア「ええ。ボーデヴィッヒさんに牽制しながら織斑さんにも対応する、なんて人間離れした芸当まで可能にしてますものね」

箒「武器の完成度もさることながら、やはり恐るべきは駆紋の実力だな……」



<アリーナ>

シャル(やっぱり、強い……)

シャル(一夏とボーデヴィッヒさんの連携は、大会までの短期間で仕上げたとは思えないほどに、ばっちりだ)

シャル(でも。それでも、駆紋戒斗を突き崩せない)

シャル(それどころか――)


ラウラ(AICか、それともレールカノンか――)

戒斗「貴様、迷ったな」

ラウラ「!?」

 ――メロンエナジー・スカッシュ!

一夏「ラウラ!?」

111: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:32:03.18 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・モニタールーム>

山田「ボーデヴィッヒさんの機体、機能停止しました……」

千冬「これで織斑と駆紋の一騎打ちになったわけか」

山田「これは、駆紋君の優勝で決まりでしょうか……?」

千冬「いや……」

山田「織斑先生は、ここから織斑君が逆転する、と?」

千冬「してくれなければ、雪片は託せんよ」

山田「……」

山田「やっぱりブラコ……」

千冬「山田先生、あとで私とISの特訓をしよう」

山田「何でもありません!」

112: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:33:22.16 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

一夏「……一騎打ちだな、戒斗」

戒斗「ああ」

一夏「……」

一夏「戒斗、お前は強い。俺が知っている、誰よりも」

戒斗「……」

一夏「だから、俺はお前になりたい」

一夏「何度負けても、どんなに辛くても、必ず立ち上がるお前に。駆紋戒斗に、俺はなりたい」

戒斗「……」

戒斗「このバカが」

戒斗「俺の強さなど通過点に過ぎん。真の強さとは――」

一夏「ああ、わかってるよ。俺は、お前に勝つ」

一夏「……」

一夏「じゃないと、お前のことを守れないからな」

戒斗「――は?」



<アリーナ・観客席>

箒「え」

鈴「えっ」

セシリア「んまあ!」



<アリーナ>

ラウラ「は、はあ?」

シャル「え゛」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「きゃあ!」

千冬「あのバカが……」

113: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:35:00.90 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

一夏「強者は、弱者を一方的に踏みにじる。世界は弱さや痛みばかり与える」

一夏「だから、強くなりたい」

一夏「俺は誰よりも強くなって――守りたいんだ!」

一夏「ずっと俺を守ってくれた千冬姉。幼なじみに、友達に……。それに」

一夏「駆紋戒斗! 俺は、お前を守りたい!」

一夏「俺は、みんなを守るために強くなりたいんだ!」

戒斗「……」

戒斗「織斑。何がお前に、その言葉を言わせた」

一夏「……」

一夏「じいちゃんだ」

一夏「小さな頃に死んじまったから、じいちゃんのことはほとんど覚えてない。でも、大きくて温かい手と、たった一つの言葉だけは胸に焼き付いているんだ」

戒斗「その言葉、とは?」

一夏「未来は己の手で勝ちとってみろ」

戒斗「……」

一夏「だから……。俺は勝ちとる。強くなって、みんなを守るんだ!」

戒斗「ふっ」

戒斗「ならば勝て。勝って貴様の強さをこの俺に見せつけてみろ――“一夏”ァッ!」

114: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:36:16.36 ID:5bQym7aBo
<アリーナの隅>

シャル(未来は己の手で勝ちとってみろ……。昨日の夜、駆紋戒斗が言っていたこと)

シャル(……)

ラウラ「ふふ。はは、はははははははははは!」

シャル「何を笑っているの?」

ラウラ「だって、笑うしかないだろう。あのバカに、私は、教官を感じてしまったんだ」

シャル「へ?」

ラウラ「未来は己の手で勝ちとってみろ。……ああ。教官もよくそう口にしていた」

シャル(……)



<アリーナ>

一夏「一撃勝負だ。――零落白夜、行くぞ!」

戒斗「来い!」



<アリーナ・観客席>

鈴「零落白夜と正面切っての勝負なんて避けるのが普通だけど……」

セシリア「駆紋さんですもの。挑まれた勝負から逃げるなんてこと、しませんわ」

箒「……」

箒(がんばれ、一夏)

115: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:37:28.79 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

一夏「戒斗ォオオオオオオオッ!」

戒斗「一夏ァッ!」



<アリーナの隅>

ラウラ「……!」

シャル「ああ! ……」

シャル「…………」

シャル「…………」

シャル「…………」

シャル「え、えー……」



<アリーナ>

 ――白式のエネルギー切れにより、駆紋・デュノアペアの勝利です

戒斗「……」

一夏「……」

戒斗「……おい」

一夏「……ごめん」

戒斗「この結果は、何だ?」

一夏「いや、その。シャルルを落とすのにちょっとシールドエネルギーを使いすぎてた、と言うか……」

戒斗「エネルギーを切らすなら、せめて激突してから切らせ! 貴様、あれだけ盛り上げておいて、斬り合う前にエネルギー切れとはどういう了見だ!?」

一夏「し、しかたないだろう!? 零落白夜はエネルギーバカ喰いのトンデモ兵器なんだからさ!?」

戒斗「そこまで読み切ってこその……! ああッ。俺はこんなのに――」

戒斗「この、バカ!」

一夏「な、なんだとお!? 今日は言わせてもらうけどな、お前だってバカじゃねえか、戒斗!」

戒斗「何だと!」

一夏「そもそも風呂覗きが強さの証明とか何だよ、頭おかしいんじゃねーか!」

一夏「それに! そんな俺様系イケメンファッションしといて、その中身が女子力高いオトメンとか何だよ! ギャップ萌えか!」

戒斗「貴様ァッ! 言わせておけばッ!」

一夏「やるかこの!」

戒斗「いいだろうッ! 今度は素手で勝負だ!」

一夏「おう、やってやろうじゃねーか。IS戦ならいざしらず、中の人勝負なら負けないぞ!!」

116: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:38:15.51 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・観客席」

セシリア「えっと……」

箒「バカだな」

鈴「バカね」

セシリア「でも……」

セシリア「なんだかちょっと、羨ましいですわ」



<アリーナの隅>

ラウラ「ははははは! あいつら、ずいぶんと楽しそうだな」

シャル「……そうだね」

ラウラ「ふふっ。何だ。何なら混ざりに行くか?」

シャル「……そんなこと、できないよ」

ラウラ「そうか? 拳一つ握って殴りこめば歓迎してくれると思うぞ。ふふっ」

シャル(……暗殺の、絶好の機会だ。コード『T・T』。そう叫ぶだけで、あの人の指示を果たせる)

シャル(僕を必要としてくれる人の望みを、叶えられる)

シャル(でも、なんでだろう……)

シャル(……)

シャル(あの二人の邪魔はできない。そう、思ってしまう……)

117: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:39:01.06 ID:5bQym7aBo
<某所>

「――ふむ」

「デュノア君はとても憐れで面白い玩具だったが」

「まあ。ここで壊してもいいだろう。あの手の人間なんて、いくらでも代わりはいるのだから」

「悪いね、“可愛いシャルロット”。これが大人の手口なんだよ」

「――コード『T・T』」

118: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:40:06.64 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

一夏「いってぇっ!? クッソ、いいパンチ持ってるじゃねーかオトメン!」

戒斗「そう言う貴様も意外と――ん?」

一夏「あれは……」



<アリーナの隅>

ラウラ「な、何だ!? ISが!?」

シャル「これは……!?」

シャル(何で!? 何で何で何で何で何で!? ――あなたも僕を捨てるの、プロフェッサー……?)

シャル(……)

シャル「助け……て……」



<アリーナ・観客席>

セシリア「あ、ISが肥大化して、操縦者を取り込んだ……?」

箒「何だ、あれは……? 二体の白い巨人……?」

鈴「戒斗のISに似てるわね……。サイズは、3倍くらいあるけど……」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「織斑先生!?」

千冬「VT《ヴァルキリー・トレースシステム》!? いや、違う……」

119: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:41:34.91 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

一夏「何だあれ……」

戒斗(――巨大な斬月、といったところか)

戒斗(いや……)

TT斬月「……」ザッ

TT斬月・真「……」ザザッ

戒斗(あの動きのキレ。あれは――呉島貴虎)

戒斗「くく。くくっ。ははははははははは!」

一夏「か、戒斗!? どうしたんだ、もしかして俺、変なところ殴ったか!?」

戒斗「違う」

戒斗(呉島貴虎に雪辱を果たす機会は永遠に失われた。――そう思っていたが、どうやらここに機会を得たらしい)

戒斗「一夏。デュノアを取り込んだISは俺がやる」

TT斬月・真「……」

戒斗「ボーデヴィッヒは……」

一夏「ああ」

一夏「あいつは、救える女だからな」

戒斗「……」

戒斗「ふん」

一夏「よし。白式展――」

一夏「……」

一夏「白式のエネルギー切れてるじゃないか!?」

戒斗「どうするつもりだ? 尻尾を巻いて逃げだすか?」

一夏「バカ言うなよバカ。生身だって、声は上げられる。……ああ、うん、なんとかなる気がしてきた。あの中にいるラウラに呼びかけて――」

戒斗「バカを言うなバカ」

戒斗「……ふん」

戒斗「こいつを使え」

一夏「これは……。黒い、ベルト。それに、バナナの錠前……?」

戒斗「未来を、己の手で勝ちとってみせろ」

一夏「……おう!」

120: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:43:11.48 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・戒斗の戦い>

戒斗「さて」

TT斬月・真「……」

 ――助け……て……。

戒斗「デュノア。貴様は、自分の足で立とうとしない、最悪の弱者だ。救う価値も無い。――俺の、価値観では」

 ――俺がみんなを守るんだ!

戒斗「一夏。葛葉。――いいだろう。俺ももう一度だけ、この世界を信じてやる!」

 ――メロンエナジー・スパーキング!



<アリーナ・一夏の戦い>

一夏「ラウラ。待ってろ、すぐにそいつの中から引きずりだしてやる!」

TT斬月「……」

一夏「……」

一夏「あれ? これ、どうやって使うんだ……?」

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 20:44:08.95 ID:QKNLN8qt0
やっぱり一夏のじいちゃんってザックのことか...

122: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:44:21.02 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・戒斗の戦い>

戒斗(同種の力では厳しいか。流石は呉島貴虎だ)

戒斗「…………」



<アリーナ・観客席>

セシリア(え……? 駆紋さん、今、こちらを……?)

鈴「セシリア、何やってんのよ! 観客の避難誘導手伝って!」

セシリア「は、はい!」



<アリーナ・戒斗の戦い>

TT斬月・真「……」

 ――メロンエナジー……

戒斗(奴がソニックアローにロックシードをセットした。悩んでいる時間は無いようだな)

戒斗(いいだろう。誰が黒幕かは、わかった)

戒斗(そして。織斑一夏は、もう、俺の手はいらない)

戒斗(――俺がこの学園に残る理由は、無くなった!)

123: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:45:19.24 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・観客席>

鈴「セシリア!」

セシリア「……」

セシリア「鈴さん、あれ……」

鈴「え? ……嘘。何あれ……」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「駆紋君の身体に……。植物の蔦……? あれは、先月の謎のISが怪物化した時の……!?」

千冬「……」

千冬(そうか……。お前は学園を去るか、駆紋)

124: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:46:13.50 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・戒斗の戦い>

戒斗(ロードバロン)「ハァッ!」

 ――オーバーロード化した戒斗は、長剣《グロンバリャム》を薙いでTT斬月・真のエネルギー弾を切り払った。

TT斬月・真「……!」

戒斗「呉島貴虎。五十年の時を経て、再び貴様と戦う機会を得た幸運に、感謝するぞ!」

 ――戒斗は身体を液体に変えて空中を翔る。TT斬月・真に喰らいつくと、その巨体をアリーナのグラウンドに叩きつけた。

TT斬月・真「!?!?!?」

戒斗「だが、同時に俺は怒りを感じている。呉島貴虎の強さを利用した、奴に!」

 ――TT斬月・真を放り投げ、液状化を解く戒斗。その手には長剣《グロンバリャム》が握られていた。

戒斗「戦極凌馬!」

 ――ヘルヘイムの植物を操り、TT斬月・真を拘束する。

戒斗「貴様にはもう一度俺の拳を叩き込んでやる!」

 ――長剣《グロンバリャム》は、TT斬月・真を切り裂いた。

戒斗「……」

戒斗「これは、バナナでは勝てないかもしれんな」

戒斗「……」

戒斗「だが。こういう、人の自由を奪う悪を倒せずして――仮面ライダーにはなれんぞ、一夏」

125: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:48:30.37 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・一夏の戦い>

一夏「これ、どう使えばいいんだよ!?」

TT斬月「……!」

一夏「うわ、撃ってきた!? なんだよあの剣、銃にもなるのか! ……と、取りあえず走る!」

千冬『――織斑。聞こえるか、織斑』

一夏「千冬姉!?」

千冬『学校では織斑先生と……まあ、いい。よく聞け愚弟。そのベルトは戦極ドライバー。バナナの錠前はロックシードだ』

一夏「そ、そうなのか。って、何で千冬姉がそんなこと知ってんだ!?」

千冬『そんなこと、今はどうでもいい。戦極ドライバーにロックシードをセットして、右側のカッティングブレードを下ろせ。そうすれば、お前はアーマードライダーに変身できる』

一夏「え、えっと」

TT斬月「!」

 ――ズドン!

一夏「うわ!? あ、危なかった……」

千冬『早くしないと死ぬぞ』

一夏「わ、わかってる!」

 ――バ・ナーナ!

一夏「バナナを、ドライバーにセット……!」

 ――ロックオン

一夏「そして――変身!」

 ――カモン・バナナアームズ!

 ――Knight・of・spear!

一夏「よし! これなら!」

 ――バナスピアーを振り上げ、TT斬月に叩きつける!

 ――ガキン。

TT斬月「……?」

一夏「ッ~~~!? 硬い! 千冬姉、こいつ、硬い!」

千冬『カッティングブレードを2度倒せ。必殺技を打てる』

一夏「わ、わかった!」

 ――カモン! バナナ・オーレ!

 ――ガキン。

一夏「千冬姉! やっぱりこいつ硬い!」

千冬『……』

千冬『バナナでは勝てないか……』

一夏「千冬姉!」

千冬『手を考える。それまで耐えろ』

一夏「わ、わかった……!」

126: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:50:34.21 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・モニタールーム>

千冬(バナナロックシードでは破壊力が足りない。なら、どうすればいい)

千冬(破壊力に優れたロックシードがあれば状況は解決できるが。しかし、そんなものどこから……)



<アリーナ・一夏の戦い>

TT斬月「……!」

一夏「う、うわっ!? ……あ、危なかった」

TT斬月「……」

一夏「こいつ、強い……。戒斗とか、千冬姉みたいな、尋常じゃない強さだ。どうする? 仮に攻撃が通じたって、こいつに必殺技を叩き込むのは骨だぞ……」

一夏「……」



<アリーナ・モニタールーム>

千冬(……)

千冬(《白騎士》。10年前に世界を変えた最初のIS)

千冬(束と作った――私の、最初の愛機)

千冬(……)

千冬(行方不明になった、と言われているが)

千冬(わかる。いや、今は、信じるしかない)

千冬(《白式》こそが《白騎士》だと)

千冬(だからあのISは、一夏に力を貸してくれているのだと……!)

127: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:51:36.58 ID:5bQym7aBo
<アリーナ・一夏の戦い>

千冬『一夏、よく聞け』

一夏「お、おう」

千冬『白式だ』

一夏「え? でも、白式はエネルギー切れ……」

千冬『白式のコアを呼び出せ。それが、状況を打開する力になる』

一夏「な、何だかわかんないけど、やってみる! 来い、白式!」

一夏「……こ、これは」

千冬『大事に使えよ。じいさんの形見だ』

一夏「……」

一夏「ああ! そういうことなら、絶対に負けねえ!」

 ――クルミ

 ――ロックオン

一夏「変身!」

 ――クルミアームズ!

 ―― Mister Knuckleman!

一夏「ハァッ!」

TT斬月「……!」

 ――メロン・スパーキング!

一夏「見ててくれ、戒斗!」

 ――クルミ・スパーキング!



<アリーナ・モニタールーム>

山田「お、織斑君、敵機の攻撃に突っ込んでいきます!?」

千冬「捨て身、くらいしか今のアイツには勝機が無いだろうからな……」

千冬(じいさん。どうか、一夏を守ってくれ……)

128: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:52:22.52 ID:5bQym7aBo
<アリーナ>

ラウラ「…………」

ラウラ「こ……こ……は……。私は……?」

ラウラ(そうだ。私はISに取り込まれて……)

ラウラ(シュヴァルツェア・レーゲンが破壊されている……? いったい、誰が……)

ラウラ「!」

ラウラ「おい、しっかりしろ」

一夏「……」

ラウラ「目を開けろ! 織斑……織斑一夏!」

一夏「……へへ」

ラウラ「!」

一夏「ざまーみろ、戒斗。やっぱり救えたじゃないか……」

ラウラ「……」

ラウラ「そうだ。お前は、私を救ってくれた」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「……ふう。何とかなりましたね」

千冬「山田先生。ちょっと離れます」

山田「へ?」

千冬「では」

山田「織斑先生!? ちょ……事後処理押しつけられたー!?」

129: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:54:08.23 ID:5bQym7aBo
<IS学園正門>

 ――戒斗は手のひらを夕陽に透かす。その手は、ガラスのように赤光を通した。

戒斗(残り時間も少ない。これで、いい)

戒斗「……」

戒斗「俺がこの学園でやりたかったことは、果たした」

戒斗「織斑一夏」

戒斗「世界で唯一ISを使える男という、『黄金の果実』になってしまったザックの――友の子孫は、本当の強さを得た」

戒斗「誰がアイツを踏みにじろうとしても――」

戒斗「未来を、己の手で勝ちとるだろう」

戒斗「……」

戒斗「あとは、現世にしがみつく亡霊に、俺の拳を再び叩きつけるだけだ……!」

戒斗「さらばだ、IS学園」


「あら。授賞式をすっぽかして、どこへ行かれるのです?」


戒斗「貴様は……」

セシリア「それとも、駆紋さんには一年生の部のトロフィーなんて無価値なのでしょうか?」

戒斗「それは一夏にやっておけ。本当の勝者は、あいつだ」

戒斗「かつて、たった一人だけ俺が負けを認めた男がいた」

戒斗「……俺は一夏に、あいつになって欲しかった」

130: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:54:58.44 ID:5bQym7aBo
セシリア「それは……。葛葉紘汰さん、ですわね」

戒斗「……ふん」

 ――俺が守りたい男は、お前だ!

戒斗「一夏があいつと同じ台詞を口にした瞬間に、俺の胸は満たされていた。……俺は、もう、負けていたんだ」

戒斗「IS学園での俺の役目は終わったんだ」

セシリア「でも――」

戒斗「何を言われても俺は止まらん」

セシリア「いいえ、引きとめてみせます」

戒斗「……」

戒斗「何故だ」

セシリア「それは……」

セシリア「……」

セシリア「わ……」

セシリア「わたくしに料理を教えてくださる、という約束が果たされていませんわ……!」

戒斗「……」

セシリア「……」

戒斗「悪いが――」


「そうだよ! 駆紋君、フルーツタルトのコツを教えてくれるって約束したよね!」


セシリア「ふぁっ!?」

132: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:55:56.44 ID:5bQym7aBo
クラスメイト1「どこ行くんだよ、大将。遠出するなら自転車貸すぜ」

クラスメイト2「ク・モーン。怪人となった君は、しかし、美しかった。あの姿こそ、君の誇りが形となったものなのだろう。……美しい君は、私達と共にいるべきだ」

戒斗「お前達……」

一夏「勝手に全部終わらせた気になってんじゃないぞ、バカ。俺がお前を倒すまで消えられちゃ困るんだよ」

戒斗「……。ふん。ボーデヴィッヒに肩を貸されてようやく歩けているような状態で、よくもまあそんな口を」

ラウラ「ふん。嬉し過ぎて涙が出るが、私も織斑一夏と同意見だ。教官に勝利した貴様は、私の手で倒さねばならないのだからな」

戒斗「……」

箒(鈴。私たちも言いたいことはあるが……)

鈴(うん。これ以上喋ると、ね)

鈴「……セシリア。あんた、もうちょっとがんばんなさいよ。このままじゃ、このここぞの場面で記憶に残れなくなるわよ」

セシリア「は!?」

セシリア「く、駆紋さん!」


「君。未来は己の手で勝ちとってみろって言ったよねえ?」


シャル「他人に偉そうに説教をした人が、黙ってみんなの前から姿を消すのは――卑怯じゃないかなあ」

戒斗「……む」

シャル「君は、君を必要としてくれる人がこんなにいるのに、どうしてそれをみんな捨てようとするの……?」

シャル「どうして、一人ぼっちになろうとするの……?」

シャル「ねえ。どうして……」

シャル「どうして一人ぼっちになろうとする君は、一人になれないの……?」

戒斗「それは――」

戒斗「……」

戒斗「俺には、わからん」

133: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:57:28.46 ID:5bQym7aBo
クラスメイト3「ハッピバースデイ!」

戒斗「!?」

クラスメイト3「ならば、この学園に残ればいい。『わからない』それは、『知りたい』という欲望を生む、すばらしい感動だ! そして――学校とは、わからないことの答えを得るためにある!」

クラスメイト3「君が二十歳だろうと、七十歳だろうと、関係無い。だって君は、1年1組の仲間なのだから!」

戒斗「……」

クラスメイト3「後藤君、例の物を」

クラスメイト5103「はい」

クラスメイト3「……オルコット君!」

セシリア「は、はひ!?」

クラスメイト3「これは、真っ先に駆紋君を引きとめた君こそが渡すべきだ」

セシリア「……」

セシリア「いえ。この、セシリア・オルコット。成果だけを横から奪うような、はしたない真似はいたしませんわ」

クラスメイト3「そうか……。高貴であれという欲望。それもまた、すばらしい」

クラスメイト3「……」

クラスメイト3「このケーキは……」

クラスメイト3「決勝戦の対戦カードが決まった時点で、1組の誰かが優勝することは分かっていたからね。クラスのみんなで作ったんだ。メッセージカードだけは、さっき書いたがね」

134: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:58:36.02 ID:5bQym7aBo
クラスメイト2「イチゴのスライスは私がした! ク・モーンの言う通り、私はイチゴのスライスにおいて頂点に立つ女だからな!」

クラスメイト1「メッセージカードは俺だ! ……流石に、マヨネーズじゃないからな?」

クラスメイト3「このメッセージを受け取って欲しい。これが、みんなの気持ちだ」

戒斗「……」

 ――『おかえり、駆紋君』

戒斗「……」

戒斗「ふん」

一夏(あ、照れてる)

セシリア(照れてますわね)

鈴(照れてるわね、あれは)

箒(照れているな)

戒斗「アリーナで見せたように、俺は怪人だ。そして、夏を前にこの身体は消え去るだろう。――それを、覚悟しておけよ」

一夏「……」

一夏「違うだろ、戒斗」

戒斗「む」

一夏「俺達は『おかえり』って言ったんだ。だったらお前は――」

戒斗「……」

戒斗「ふん」

一夏「言えよ『ただいま』!?」



<正門近くの木の陰>

千冬「……」

千冬「ふっ」

千冬「じいさん。あんたの心残り、もしかしたら叶うかもしれないよ」

135: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 20:59:40.87 ID:5bQym7aBo
<夜・学生寮1025室>

戒斗「シャルロット・デュノア。貴様の裏にいたのは篠ノ之束ではなく、戦極凌馬だな」

シャル「……」

戒斗「ふん。その反応でわかる。俺も、とんだ道化を演じたものだ」

シャル「……」

シャル「僕は、あの人にも捨てられてしまったのかな……」

戒斗「貴様のように、ボロ雑巾のように利用されるためにいるような弱者など、世の中には掃いて捨てるほどいる。戦極凌馬にとっての貴様なぞ、そこいらのゴミと変わらない存在だったのだろう」

シャル「……あはは。手厳しいね」

シャル「……」

シャル「どうして、こうなっちゃったのかな。……僕はただ、誰かに必要とされたかっただけなのに……」

戒斗「……」

戒斗「わからんか?」

シャル「……」

シャル「ひっく……ぐす……」

シャル「わかってたら、僕の頬はこんなに熱くならなかったよ……」

戒斗「……」

戒斗「ならば、ここにいればいい」

戒斗「ここにいれば、わからないことの答えを得られるらしいからな」

シャル「……」

シャル「…………」

シャル「うん……」

136: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 21:00:42.35 ID:5bQym7aBo
■終幕
<大会翌日・SHR前・1年1組>

一夏「シャルルの目が兎みたいになってる件について」

戒斗「……」

戒斗「何故、俺を見る」

一夏「原因なんてお前しかいないだろう、同室なんだからさ! 何した!? 何してシャルルを泣かせた!」

「駆紋君がデュノア君を泣かせた……?」
「きゃー! 一晩中ベッドの上でー!?」
「そーゆー意味じゃないと思うけどなー」
「それに! 駆紋君は襲い受けだって昨日の試合で証明されたじゃない!」
「いやいや、あれは織斑君相手だけで、デュノア君相手には鬼畜攻めの可能性がまだ……!」

戒斗「……」

一夏「……。俺から仕掛けといて何だけど、やめよう、この喧嘩」

戒斗「ああ……」

シャル「……」

一夏「けど。シャルル、何かあったらすぐに言うんだぞ」

シャル「どうして……?」

一夏「どうしてって。え、それ、言わなきゃダメか?」

シャル「うん。教えて欲しいな」

一夏「あー……」

一夏「……」

一夏「俺達、友達じゃん?」

137: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 21:01:58.71 ID:5bQym7aBo
シャル「……!」

戒斗「……」

一夏「な、何だよ、二人して変な顔して!?」

戒斗「二人ではない、な」

一夏「え? ……あ゛」

「きゃー! 織×デュキター!」
「何なの!? 織斑君は薔薇ハーレムを造ろうとしているの!? さすがすぎるわ!」
「キライジャナイワ! キライジャナイワ!」
「ホモハーレムマスター織斑一夏……。恐ろしい子……!」

一夏「……」

一夏「泣きたい」

ラウラ「ふっ。――お前に涙は似合わないぞ、“相棒”」

一夏「ら、ラウラ!? ……その黒のソフト帽は何だ?」

ラウラ「ハードボイルドだろう?」

一夏「わけがわからん!」

ラウラ「貴様との関係を我がドイツにいる副官に話したらな、『それは相棒だ』と教わったのだ。クラリッサの本棚は全ての日本の記憶が存在しているんだ! これで決まりだ!」

一夏「仮に本当に日本通だとしても、検索ワード間違えてるだろ!?」

千冬「いつまで騒いでいるんだ、バカ共。また石を抱かされたいのか? SHRを始めるぞ」

一夏「うわ、千冬姉――いでっ!?」

千冬「学校では織斑先生だ」

一夏「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」

千冬「よろしい」

シャル「……」

シャル「……ふふっ」

戒斗「くくっ」

一夏「あ!? 二人とも笑うなんて酷――あでっ!?」

千冬「SHRを始めると言っただろう、バカ。騒ぐな」

一夏「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」

千冬「よろしい。では、SHRを始める」

千冬「まずは七月の郊外特別実習期間についてだ――」

139: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 21:04:34.89 ID:5bQym7aBo
<病室>

貴虎(私の76年の人生が終わろうとしている――)

貴虎(失敗ばかりの人生だったが、悪くはなかった)

貴虎(心残りはあるが、希望もある)

貴虎(葛葉。かつてお前が示してくれた希望は、世界に未来があると信じさせてくれる)

貴虎(ありがとう。――この世界に希望があると信じられるから、私は、死が怖くない)

貴虎(……)

貴虎「誰だ」

「やあ。スクリーン越しに失礼するよ。本当は私自身が迎えに行きたかったのだけれどね。生憎と、身体がなくてね」

貴虎「貴様は……! どうしてお前が生きているんだ、凌馬……!」

戦極凌馬「おや。半世紀越しの再会に感動してくれないのかい? 私はこの五十年待ち焦がれた喜びに打ち震えて、ショートしそうだよ」

貴虎「そうか……! ISはお前が作ったんだな。だから、ISのコアはヘルヘイムの果実だった」

貴虎「――ISは、進化した戦極ドライバーだ……!」

凌馬「ご明察。流石は呉島貴虎、やはり、君を置いて他にはいない」

貴虎「何の話だ……」

凌馬「T・T《タカトラ・トレースシステム》というものを作ってみた。が、やはり贋作は贋作だね。真作に及ぶものではない。それでは至れない」

貴虎「質問に答えろ、凌馬……!」

凌馬「おお、怖い怖い。老人になっても迫力は変わらないねえ。流石、呉島主任、だ」

凌馬「ふふ。――だからこそ、君は僕の憧れなんだ」

凌馬「いいさ、質問に答えよう。私が君を何に選んだか、何をしようとしているか」

貴虎「……」

凌馬「君を、神にする! ――私の力、でね」

貴虎「バカなことを……!」

凌馬「ふふっ。まあ、話はここまでだ。君が君である限り、呉島貴虎が神になれないことは私も理解している。だから」

凌馬「――まずは、死んでくれ」

貴虎「――ッ!?」

 ――その日。

 ――最高のアーマードライダーが、命と尊厳を奪われた。

140: ◆n.O102o4Y2 2015/01/11(日) 21:07:21.49 ID:5bQym7aBo
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 本編 了


 長かった……(しろめ
 あと。たぶん。この世界における、メガヘクスの事件から今に到るまでの五十年も、本当に、長かったんだろうなぁと思います。
 これにて本編は終了。前スレと同じく、このスレはいくつかの短編を投下した後にHTML化依頼を出して終わらせます。
 そして、既に予想はついていると思われますが、本編完結編(IS3巻またはアニメ9~12話分のストーリー)が完成したら、改めて次スレを立てます。イツニナルカナー

 現在予定している短編の数は九本。おそらく増減はするでしょうがー。
 セシリア完結編、ラウラ完結編、シャル完結編、などをやりつつ。
『泊進ノ介最後の事件』
 という短編を投下しましたら、このスレを終了いたします。

 それでは。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 21:12:42.27 ID:nH5M6mBR0

よく考えるとメガヘクス製のメカ戦極凌馬は本物と同じ思考と記憶を持ってるだけでプロフェッサーとは別人だよな

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 21:16:09.55 ID:QKNLN8qt0

ラスボスはプロフェッサーかな
多る、ベルトさんみたいに自分の人格データのバックアップつとってたんだろうな

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/11(日) 23:52:40.64 ID:Rfw1lHSbO
乙ー
毎回ゲストに笑うwww

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/12(月) 00:35:53.84 ID:EK1OJrzF0
そういやライダーはみんな暗殺された的な設定だけど、紘汰さんはどうなったんだろ?
まさかわざわざ紘汰さんが神様やってる星まで出向くなんて真似はしなさそうだけど…

152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/12(月) 00:43:11.13 ID:mCf7fPTSO
>>151
あれは世間的には失踪、行方不明者扱いじゃね

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/12(月) 07:22:19.94 ID:EZwIuxudO
カイトが学園に引き留められるシーンってディケイド のファイズ編とちょっとだけ似てるけどこういう話ってなんかいいな

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/12(月) 11:02:44.98 ID:mCf7fPTSO
ラウラが翔太郎のように必殺技名を戦闘中に言っちゃいそう
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 
 ・前編  ・中編  ・後編 





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